フィールドプラス no.26
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責任編集 遠藤光暁 言語特徴を地図に描こうという企ては19世紀末にドイツ・フランスで始まった。日本でも20世紀初に全国の方言分布を区画した地図集が出て、これは世界的にも最早期に属するものである。この分野を「方言地理学」・ 「言語地理学」(両者はほぼ同義)というが、国立国語研究所の『日本言語地図』(1966年〜1974年)がその頂点を示している。 それをアジアの他の地域に及ぼそうとする試みが日本で2007年から起こった。当初は語族ごとにオーソドックスな言語地理学を開始するのを目標とし、長い伝統を持つ日本語の言語地理学をお手本としてきた。実際にやっていくと、語族と語族の交わるあたりでは隣接する語族に類似する現象が多く見つかり、周辺の諸語族に対するパースペクティブがないのは危険だということが痛感された。こうした国や語族の枠を超えた多言語を扱う地理的研究を近年では「地理言語学geolinguistics」と呼ぶようになってきている。 ここに見る地図はその成果を集成したLinguistic Atlas of Asia(ひつじ書房、2021年刊行予定)の「稲」の項目のものである。語族を色で区分しており、特に高精細度の東・東南アジアを大きく掲げ、アジアのみならずアフリカ北部やオセアニアにわたる全域を小さく示してある。 本特集では、全20名ほどの研究グループのメンバーのうち4名のとっておきの裏話をご披露する。いずれも若い修行時代の頃から奥地に分け入ってフィールドワークを行ってきた勇者である。音声細部を精確に表すため国際音声記号が使用されることもあるが、やや特殊なものには説明が付してある。 現在ではアフリカ全域も加え、遺伝学・考古学とのコラボによる第2期プロジェクトが進行中である。遺伝学では、人類がその発祥地のアフリカから世界各地に拡散していったプロセスを数万年以上のタイムスパンで解明しつつある。言語特徴の面でも、いっそう豊かなバラエティーの地理分布が描画されるようになり、アジア・アフリカ全域を一望のもとに収めようとしている。(Esri, HERE, Garmin)本特集は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「アジア地理言語学研究」(2015-17年度、代表:遠藤光暁)の成果の一端を紹介したものである。その英文報告書15種が電子出版物としてhttps://publication.aa-ken.jp/において公開されている。(Esri, HERE, Garmin)33FIELDPLUS 2021 07 no.26

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