私のフィールドワークコモロマダガスカルセーシェルモーリシャスさせ、さらにそれを蒸留した癖のある49度の透明な酒である。何だかよくわからないままそれを空きっ腹に3杯放り込んだので、朦朧とした頭にさらに霞がかかったような状態になったが、陶然としているうちにインフルエンザが治ったように感じた。その時思ったのは、その妙な名前の島までお礼参りに行かなければならないということだった。 それから2年少し経った2000年3月に文部省(当時)の短期在外研究員としてレユニオン島に降り立つことができた。その申請書に適当に書いた目的が民話の調査だったので、それ以来インド洋の民話を扱うことになったのであるが、短い滞在での様々な体験をこの『フィールドプラス』の前身に相当するAA研『通信』99号(2000年7月)に書いた(「混成の小宇宙─レユニオン島─」)。その初めての訪問以降毎年1回は島を訪れていたが、2020年はCOVID-19の世界的流行でそれが叶わなかった。今回、20年間の言わば総括を書くことになったのも何かの巡り合わせかも知れない。レユニオン20レユニオン島との20年 フランス共和国の海外県レユニオン島を訪れることになったきっかけは半ば偶然のようなものだった。1998年の1月、冬のパリで安ホテルに滞在していた時、たちの悪いインフルエンザにかかり、ほとんど水だけを飲んで寝込んでいた。2日ほど経った頃そろそろ何か食べないとまずいと思い、ふらつく足でホテルを出たがその日はあいにく日曜日で、当時のパリでは休日に営業しているカフェは今よりもずっと少なかった。大通りまでさまよい出て開いているカフェに適当に入り、朦朧とした頭でメニューを眺めていると「レユニオン」という語が目に入った。「レユニオン」とは会議とか集会、または合併とか併合などを表す、ごく普通の名詞である。なぜかその言葉が妙に気になって(これは具合が悪い時の典型的な症状である)、取り敢えずその名前がついている飲み物を注文した(これも具合が悪い時の不可思議な行動である)。その代物は、あとになって知ったのであるが、レユニオン島で作られている「シャレット(牛がひく荷車)」という銘柄のラム酒だった。サトウキビの搾りかすに水を加えて発酵混成の小宇宙2000-2019小田淳一 おだ じゅんいち / AA研フェローインド洋西域の島嶼世界で語られている民話を集めて20余年になる。最も頻繁に訪れたレユニオン島での様々な「混ぜこぜ」状態のダイナミズムには未だに圧倒される。
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