ブルジュ・ハンムードドーラマイケルズ・ブチャリハムラー至 アンテリアスアルメニア通りレバノンベイルート地中海ベイルート川フィールドワーカーのりから少し広い通りを南に入ってすぐのところにある。どうやらもう60年くらい営業しているようだが、店内は機器も含めて清潔感がある。カウンターの下の陳列ケースにロース肉やバラ肉、ヒレ肉、骨付き肉などが並んでいるので、好きな部位を指定して量り売りしてもらえばよい。ソーセージ類も置いている。ただし、残念ながら薄切りやひき肉にはしてもらえないようなので、少し大きめの塊を買って、帰宅後よく研いだ包丁で自分でスライスすることになる。値段は部位によって異なるが、羊より安いくらいだ。肉の加工と会計は別の人が行うので、衛生面でも安心して買い物することができる。 この地区は、1915年オスマン帝国により追放されて逃れてきたアルメニア人キリスト教徒が住みついて発展したという。現在でも、街角のあちこちにアルメニア文字が書かれた看板・標識を見ることができる。ベイルート中心部のような高層建築はほとんど見当たらず、ややくたびれてはいるものの、落ち着いた下町という趣だ。ここからアルメニア通りを東にドーラ地区に向かって進むと、次第に雰囲気が変わってくる。この地区は、東南アジアや南アジア、アフリカ各地からやってきた労働者が多く住む、新しい移民の街であるという。特にバスターミナルともなっている環状交差点の周囲は、主にそのような人々をターゲットにした輸入雑貨や安価な衣料品のお店が多数集まっており、非常に賑やかだ。また、こういった客層を反映してか、露店の八百屋ではゴーヤのようなベイルートのほかの地区ではなかなか見かけない野菜も手に入る。そしてこの町では、アメリカ産ながら豆腐やそのほか調味料も簡単に手に入るから、家で下ごしらえをして炒めれば、ゴーヤチャンプルーの出来上がり……。 ところで現在レバノンは、政治の腐敗、金融危機、コロナ問題によって非常に困難な状況にある。移民労働者の置かれた状況は特に深刻で、給与を支払えなくなった雇用主によって自国の大使館前に放り出されたという話も多数報告されている。本来ベイルートの中東研究日本センター(Japan Center for Middle Eastern Studies、略称JaCMES)勤務の筆者も、現在日本への帰国を余儀なくされているが、再びこの街に戻ることのできる日が早く来ることを願うばかりである。 中東有数の美食の町ベイルートに暮らしていると、大概の食材の調達には困らずにすむ。お金さえ出せば、日本から輸入された霜降りの牛肉だって簡単に手に入る。キリスト教徒の多いお国柄だろうか、豚肉だってブラジルから輸入された冷凍品が、大手のスーパーに行けば当たり前のように置かれている。でも、もっと新鮮なものが欲しいときは……問題ない。ベイルート首都圏北東部、ベイルート川の東に位置するブルジュ・ハンムードに行けば、新鮮な肉を扱う「マイケルズ・ブチャリ(Michael’s Butchery)」というお店がある。ベイルートの中心からは少し離れているので、タクシーをつかまえるか、西ベイルートのハムラー地区と北東郊外のアンテリアスを結ぶ2番バスを利用するとよい。アルメニア通アルメニア文字、アラビア文字、ラテン文字が並ぶドーラ地区の街並み。ベイルートには多くのアルメニア料理店がある。軒先の八百屋。マイケルズ・ブチャリのカウンター。2021 01 no. 25[発行]東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1 電話042-330-5600 FAX 042-330-5610定価 : 本体455円+税[発売]東京外国語大学出版会電話042-330-5559 FAX 042-330-5199FieldPLUSフィールドプラス篠田知暁しのだ ともあき / AA研特任研究員(JaCMES勤務)ベイルート北東部の移民の街で食材調達*写真はすべて筆者撮影。
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