FIELD PLUS No.25
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毛を焼いて削り、解体した豚を蒸し焼きにする。もう少しで熟れるコパの実。即席麺と野菜をのせたご飯を取り分ける。パプア・ニューギニアニューギニア高地シンブー州26FIELDPLUS 2021 01 no.25Field+FOODパプア・ニューギニア高地、食を通して見るドム人の生活千田俊太郎 ちだ しゅんたらう / 京都大学日常の食 ニューギニア島は世界で二番目に大きな島である。内陸部に住む人々の中には、一生海を見ることのない人も多い。してみると不思議なのは、シンブー州を含むニューギニア高地の多くで、現在の主食がアメリカ大陸原産の薩摩芋であることである。大航海時代にニューギニア沿岸部にもたらされたものが、相当早い時期に内陸部に入り込んだものらしい。1930年代に探険隊により「発見」されたニューギニア高地人は、それ以前に外部との交渉を全くもたなかったわけではないのである。ドム人は、薩摩芋のほか、キャッサバや煙草などのアメリカ原産の農作物について、古い独自の伝統だと熱っぽく語る。数百年を経たものであれば立派な伝統ではあるが、伝統的なのはむしろ進取の気性なのだと解釈することもできる。薩摩芋の導入以前からの作物も多い。バナナ、タロ芋、ヤム芋、砂糖黍その他のくさぐさの野菜のほか、珍味もある。しかし、とにかく薩摩芋がないとちゃんとした食事にならない、といった声も聞かれる。 近年、ドム人を虜にしてしまったものに、米、袋の即席麺、魚の缶詰がある。たまに食す、茹でた即席麺や缶詰の魚をのせた米のご飯は日常に、小さな幸せをもたらす。調味料や調理方法の限られた世界に突然精製塩と精製油が入った状況では、人工調味料のうまみは脅威的にはたらく。 冠婚葬祭の食 ハレの行事にもケの行事にも豚は欠かせない。関係者が持ち寄って、できれば数頭、有力者の場合は数十頭の豚がられる。昔は、広範囲のニューギニア高地人が一斉に豚をる「豚殺し」の行事があった。この行事はお祭りのためのお祭りだったのだが、多くの人にとって重荷だったため、1980年代に高地で一斉にこの行事をやめたよしである。最近はどの行事の規模も縮小傾向であり、豚の飼育もそれほどさかんではない。お金があれば、街に出て輸入の羊肉を買ってくるのが手軽である。パプア・ニューギニアの高地人は新しもの好きである。20世紀半ば、西洋世界からの探険家、宣教師、駐在さんとの接触以降、社会が変化する速度には眼を見張る。田舎で自給自足の生活を続けるシンブー州のドム人の食を通して、新しくも古い生活様式を紹介したい。*写真はすべて筆者撮影。

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