FIELD PLUS No.25
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23FIELDPLUS 2021 01 no.25 「フィールド実験」ができるまで ――実験屋とフィールド屋の協働 フィールドワーカー(以下、フィールド屋)は、現地の人々と付き合い、交渉を繰り返す中で、相互行為の文脈に応じた表情や身振りを学習していく。彼/彼女の表情もまた、ふるまいの一部として現地の人々の観察対象になる。認知心理学、霊長類学、生態人類学を専門とする私たちは、アフリカ(タンザニア、カメルーン、ケニア)、北欧(フィンランド)、東南アジア(タイ)、日本をフィールドに顔認知や顔表象を多文化間で比較・検討する共同研究をおこなってきた。ここではそこでの発見に触れつつ、分業ではなく融合による異分野間の共同研究の可能性について紹介したい。 最初に私たちのプロジェクトの沿革を簡単に紹介する。フィールド屋と認知心理学者(以下、実験屋)の協働が始まったのは今から10年ほど前である。毎年タンザニアに滞在し野生チンパンジーの研究をしていた島田(霊長類学)と実験室の中でヒトの認知に関わる心理実験に勤しんでいた高橋(認知心理学)の間で、フィールドの中に認知心理学の手法を持ち込んで実験研究を展開するというプロジェクトが始まった。2人は、学部時代には徹夜で麻雀に打ち込んだ仲であったが、当初はまさに試行錯誤の連続であった。心理学の実験室では当たり前のようにできていたことがフィールドでは通用しなかったからだ。 例えば、あるタンザニアの村人に「紙と鉛筆を用いて、ある概念と一致する別の概念を線でつなぐ」という実験への協力をお願いしたところ、「線でつなぐ」という行為が「怖い」と警戒され、受け入れられず、失敗に終わった。しかし、状況はタブレットをもちいることで一変する。軽量のタブレットは携帯が容易で、1回の充電で10時間以上も使用ができる。画面を見ながら指で触るだけで操作ができるので、電源が安定せずPCが普及していない都市から離れた場所でも、実験を実施するハードルが低くなった(図1)。 さらにカメルーンの熱帯林をフィールドに狩猟採集民や焼畑農耕民の研究を行なっている大石(生態人類学)が加わったことで、東西アフリカで同じ調査を行なうことが可能になった。この頃、議論したのが研究テーマである。フィールドでの実験図1:タンザニアでのフィールド実験風景(撮影・島田将喜)。カメルーンタンザニアケニア日本タイフィンランド顔と名前を覚え/覚えられることは、人を対象としたフィールドワークには欠かせない。人が顔に表れる感情を受け取り理解するやり方には、どの程度の普遍性と文化差がみられるのだろうか?顔とemojiのフィールドワーク異分野融合のフィールド実験で「顔を見る/読む/描く」に挑むフロンティア高橋康介たかはし こうすけ / 中京大学 田 暁潔でん しょうち / 筑波大学 大石高典おおいし たかのり / 東京外国語大学島田将喜しまだ まさき / 帝京科学大学 錢 琨せん こん / 九州大学 

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