FIELD PLUS No.25
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14FIELDPLUS 2021 01 no.25ハンバントータ県トリンコマリー県キャンディ県ヌワラエリヤ県マタラコロンボスリランカインド普段活動していた南部ハンバントータ県から東部トリンコマリー県に移動し、公衆衛生官(PHI)と一緒に小学校を訪問して手洗い・うがいの授業を行う予定だった。授業開始直前、急激に具合が悪くなり、帰路の記憶はほぼない。目を開けると高熱のためか天井と床がぐるぐる回転している。私はデング出血熱の診断を受け、スリランカとシンガポールで入院することになった。デング熱は蚊が媒介する感染症で、デング熱と出血症状等を伴う重症型のデング出血熱に分けられる。特効薬はないので、点滴や解熱剤の投与等症状に合わせた治療をしてもらい、回復を待つ。私の場合、退院後も1ヶ月間ひどい倦怠感が続いたが、徐々に回復した。私はデング出血熱の罹患を通して感染症の「怖さ」や高熱・出血症状等の身体的「辛さ」を知る一方で、人間が持つ回復力という「強さ」も実感しスリランカでデング熱にかかる 息を吸うだけで全身に衝撃がある程の頭痛。そして体がふわふわしている気がした。2004年、私はAMDAというNGOで医療和平プロジェクトに携わっていた。その特別プログラムの日だった。た。同時に、医師・看護師等の医療従事者の方々への「感謝」を改めて感じた。 デング出血熱罹患は、私とデング熱研究の出会いとなった。蚊媒介性感染症は蚊に刺されて拡がるので、蚊を増やさない環境作りと防蚊が重要である。人はどのように防蚊対策を行う/行わないのか、デング熱が特に発生する地域はどこなのか、媒介する蚊の特徴は何だろう。そして、どこに感染拡大の鍵があり、それを解決して感染を減らすことはできるのか。私はデング熱とマラリアを比較し媒介蚊の特徴や違いを考え、人々の実施している防蚊行動にも着目して研究を続けている。スリランカにはリンパ性フィラリア症、ジカ熱等、蚊によって媒介される感染症がいくつかある。特にマラリアは、スリランカでかつて爆発的に流行していたものの現時点では国内感染ゼロを達成し、2016年WHOより排除国として認定されている。マラリアゼロ達成までの道のりを私のフィールド調査と共に辿ってみよう。マラリアとマラリア地域事務所 マラリアは、スリランカで1880年頃までシンハラ語でジャングル熱と呼ばれ、1940年代後半になるまで主要な死因であった。1934年~1935年の大流行時には感染数推定500万人以上、死者は8万人に上り、乳幼児の2人に1人が命を落としている。スリランカにはマラリア対策の地域事務所がある。キャンディ県にあるマラリア地域事務所は、キャンディ県と隣のヌワラエリヤ県を担当し、マラリアの予防や各種診断・治療が行える。また、住宅地内でのボウフラ調査。コロンボ市での蚊の調査研究。キャンディ県マラリア地域事務所、蚊の捕食魚の養殖。デング熱罹患による私と蚊媒介性感染症の出会い。そしてかつてスリランカで大流行したマラリアが国内感染ゼロを達成するまでのスリランカの取組みと背景を考える。佐藤惠子 さとう けいこ / AA研非常勤研究員スリランカのマラリア対策蚊を増やさない環境作りと防蚊*写真はすべて筆者撮影。感染症対策特別編フィールドで見つけました連載企画1

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