書を求めよ! 町へ出よう!をフィールドワークする巻頭特集言語名として)と密接な関連があり、いわゆる「漢字文化圏」は「漢語・漢文文化圏」と重なる。ラテンアルファベットのように、言語・宗教・文化を超えて利用されるほど広範に亘るものではなく、漢字は使用者こそ多いものの、世界的に見れば局所の文字である。 一方、漢字は「造字力」の高さから、インターネット時代であり、文字の規範化が一層進んだ現代においてすら、新字、地域的な変異、社会集団ごとの使用差異を生みだしている。言い換えると、常に新しい調査対象が産出されている文字体系ともいえる。 近年、「漢字学」では中国語学・日本語学の枠を超え、中国の地方字、少数民族言語の文字との関わり、というように、周辺地域からのアプローチも注目されている。また、文字自体の理論的研究を支える、研究術語を考える上でも漢字の研究は欠かせない。 笹原・吉川・岡田のフィールドワークは、地域こそ違えど、「臨地調査」の重要性と緊急性を提示する。落合の研究対象は古代の甲骨文字だが、それが現代に「生きる」書体の一つとなり、興味深いテーマとなることも示す。黒澤・清水は、周辺言語・文字から漢字をとらえなおす視座を提供してくれる。 本特集をご覧いただければ、「文字のフィールドワーク」も「不要不急の」ものではないことがお分かりいただけるはずだ。本特集は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「アジア文字研究基盤の構築(1)、(2)」(代表:荒川慎太郎)の成果の一部である。3FIELDPLUS 2020 07 no.24
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