ワンピース姿の女子学生、2020年3月撮影。ラーホール経営科学大学キャンパス内にて撮影。フランスで買ったワンピースだという。最近はファッションとしてスニーカーを履いている女性も多い。ラーホール市内のショッピングモール、パッケージーズモール。2017年にオープンした。国内外の有名な衣類ブランドが軒を連ねるほか、フードコートや映画館、大型スーパーなども入っている。ラーホール市内のアナールカリーバーザール。パンジャーブ大学のインターンシップ生たち、2017年8月撮影。真ん中3名が着用しているのがアバーヤである。真ん中左の女性は顔覆い(ナカーブ)をしている。両端の2人はシャルワール・カミーズを着用している。31FIELDPLUS 2020 07 no.24を着用する女性はより宗教心が篤いとみなされる。 最後に、パンツ・シャツとは、トップスにジーンズや細身のズボンを合わせたスタイルのことを指す。最近では欧米の影響を受けて丈の短いトップスや、ふくらはぎが露出する7分丈パンツなども着用されている。多様な場とそれに応じた装い 次に、女子大生たちが日常的に移動する場と、そこでの装いに焦点を当ててみよう。ここでは、ラーホール市内の共学大学とバーザール、ショッピングモールに着目する。同じ共学大学でも、私立大学と公立大学では場が大きく異なる。例えば、国内で有数の学費の高さを誇る私立大学のラーホール経営科学大学においては、女子学生の服装は、アバーヤ、シャルワール・カミーズ、パンツ・シャツ、へそ出しTシャツとさまざまである。対して、公立大学のパンジャーブ大学では、シャルワール・カミーズやアバーヤを着用した女子学生が多く、パンツ・シャツ姿の女子学生はかなり少数である。ここから、女子学生の装いの方法には、大学ごとの校風の違いに加えて、彼女たちの経済的なバックグランドや家族の方針など様々な要素が影響を与えていることがわかる。 続いて、バーザール、すなわち伝統的な市場とショッピングモールに着目する。一般的に、バーザールよりもショッピングモールの方が安全であるとされている。なぜなら、バーザールでは狭く混雑した場所に店舗が乱立しており、他人との距離が近いのに対して、ショッピングモールには入り口にセキュリティチェックが設置されており、警備員も常駐しているためハラスメントの危険性が少ないからである。バーザールには女性客も多いが、そのほとんどが頭を覆っている。それゆえに、ショッピングモールでは大学と同じようにパンツ・シャツを着用するというある女子学生は、バーザールへ行く時にはシャルワール・カミーズに着替えるという。さらに、普段シャルワール・カミーズを着ているまた別の女子学生は、大学やショッピングモールでは頭を覆わないが、バーザールでは必ず頭を覆うという。この場合、シャルワール・カミーズに着替える/頭を覆うという行為は、バーザールでのハラスメントを回避するという観点と、場の保守的な服装規範に自らを適合させるという観点の両方から分析できる。装いの背景を考える ムスリム女性の装いにおいては宗教的な服装規範が注目されやすい。実際に、宗教的な動機からどのような場においても全身を覆って生活している女性もいる。しかし、パキスタン都市部に暮らす女子大生の装いの背景を一つ一つ検討していくことによって、彼女たちの社会階層や、ハラスメントを避けようとする心がけ、そして場によって異なる服装規範といった、宗教規範とは異なる要素が浮かび上がってくる。このように、それぞれの場で求められる服装や男性との距離感を敏感に感じ取りながら、そのなかで自ら魅力的に着飾ってオシャレを楽しむ女子大生の姿は、日本にあってTPOに応じて装いを変える我々の姿とも重なるのではないだろうか。
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