FIELD PLUS No.24
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29FIELDPLUS 2020 07 no.24その内容にあわせた書体の選択により、単なる対訳と文字の併記を超えた、シベ・満洲・漢文化が高度に融合された世界を書き出すことに成功している。「智慧是宝貝」という作品は、瓢箪として象られた知識が光を放つ様子を書いているが、篆書で瓢箪の形に象られた知識と、楷書で書かれた光のコントラストが印象的であり、さらに楷書で光を象って書かれている散文は中国語・シベ語ともに氏の創作である。 2019年は国際連合により国際先住民族言語年として制定され、様々な活動を通し先住民族の言語の保護が注目された。これら一連の動きの根底にあったのは、少数民族が多数派の民族に言語的・文化的に抑圧・同化され、自らの言語・文化を失っていくという危機意識だが、「三語書法」が映し出すものはそれとは異なり、多数派と少数派の言語・文化が調和をとりながら融合し、そのこ特にシベ語・満洲語を中国語と組み合わせるスタイルは、シベの人々の過去から現在に連なる生活を反映したものといえるだろう。彼らは日常的に中国の公用語である中国語と彼らの民族語であるシベ語の両方を切り替えながら生活している。そしてこのような言語使用は、清朝の時代から満洲語・中国語を含めた多言語対訳のスタイル(合がっ璧ぺきという)に遡ることができる。しかし、格吐肯氏が強調するのは、字形の美しさや三言語の対訳という技術の高さより、むしろ書かれた内容の奥深さである。格吐肯氏は、真に良い作品を作るためには、個々の言語の書体に対する知識や筆を操る技術だけでなく、個々の言語に精通し、文学や歴史など個々の言語の文化にも精通することが欠かせないという。氏の作品の中には漢詩(唐詩)を題材にしたものが少なくない。氏は漢詩を自らシベ語や満洲語に翻訳し、書として表現しているが、とにより新たな文化が生み出されていくという文化の共存・共生のあり方であるといえる。◆シベ書道の継承はなるか さて、このようにシベ書道の道を切り拓いてきた格吐肯氏だが、氏も現在70歳を超え、後継者の問題が気になるところである。シベ書道は若い世代に継承されていくのだろうか? 幸い、シベ書道は継承されそうだ。2004年には出身地のチャプチャルシベ自治県に氏の作品を展示する「格吐肯書院」が建立され、2014年には氏の満洲書道とシベ書道が中国国務院により「国家級非物質文化遺産」に制定され、現在では二人の後継者を公式に育てているという。この二人もそれぞれ50代と決して若くはないが、格吐肯氏の書道を受け継ぎ、シベ書道を発展させる大きな期待がかけられている。 格吐肯氏が実演で書いた作品「双龍」。シベ文字のmuduri「龍」と 漢字の「龍」が組み合わされ、躍動感のある作品に仕上がっている。「大美伊犁」会場に設けられたスペースで書を披露する格吐肯氏。会場の様子。書道展では格吐肯氏の21点の作品と、AA研所蔵のシベ語・満洲語の資料が展示された。(御園生みのり氏撮影)中  国イリカザフ自治州チャプチャルシベ自治県

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