28FIELDPLUS 2020 07 no.24文字・シベ文字の書体は氏が漢字の各書体をもとに創作したことによりはじめて体系的に整備された。今回の企画展で展示された作品「百鶏」では氏の創作した多彩な書体を堪能することができる。「百鶏」は漢字の甲骨文・行書・楷書・草書・隷書・篆書と満洲文字・シベ文字の行書・楷書・草書・隷書・篆書で「鶏」という字を書き並べたものである。「百」という題ではあるが、実際には百を超える字から構成されている。また、「盧倫詩塞下曲」は同一の漢詩を漢字の楷書・隷書・行書・草書・篆書とシベ文字の楷書・隷書・行書・草書、満洲文字の篆書で書いており、シベ文字・満洲文字と漢字の様々な書体による印象の違いを味わうことができる。 氏の作品はシベ文字・満洲文字をもとに像を描くという造形性の高さも一つの特徴であるといえる。例えば「忍」は、他者の評価といった外圧にているが、そのうちシベ語を話すことができるのは新疆ウイグル自治区に居住する人々のみで、約2–3万人と推計される。 シベ語は文字(シベ文字)も持っている。シベ文字は満洲語を書き表す満洲文字をもとに、若干の改良を加えて作られている。そしてさらに遡ると、満洲文字はモンゴル文字をもとに作られている。シベ文字はもととなった満洲文字、モンゴル文字と同様、表音文字である。縦書きし、単語ごとに分かち書きをする。縦書きである点は日本語と共通しているが、日本語の縦書きは行を右から左に送るのに対し、モンゴル文字の系統に属する文字は行を左から右に送るという違いがある。 先述の通り、シベ族の中でシベ語を話すことができる人は限られているが、そのうち文字の読み書きができる人はさらに限られている。シベ文字の読み書きができる人々は文芸や歴史研究など、文化の担い手としても貴重な存在であり、今回紹介する格吐肯氏はそのうちの一人でもある。◆格吐肯氏の作品から さて、いよいよ氏の作品を今回の企画展で展示されたものからいくつか紹介しよう。まず注目すべきは、氏が満洲文字・シベ文字の多様な書体を創作し、シベ語の書体を体系化したことにある。漢字には行書・楷書・草書・篆書・隷書など様々な書体が存在するが、氏の前には満洲文字・シベ文字ともに書体は体系化されていなかった。満洲耐え忍ぶ作者自身を描いた作品だが、この作品ではシベ語のkiri(耐え忍べ)という語の文字が漢字の「忍」に向けて突き立てられる刀として造形され書かれている。また、「大美伊犁」という作品はambalinggū saikan ili(大いなる美しきイリ)という文字がチャプチャルシベ自治県が含まれるイリ地方の形に造形されている。◆三語書法──シベ語・満洲語・中国語の 多言語の融合 このように氏の作品は多様な書体や、文字を使った造形に特徴があるが、今回企画展において特に注目したのは氏の「三語書法」というスタイルである。「三語」というのはシベ語(シベ文字)・満洲語(満洲文字)・中国語(漢字)を表しており、三語書法の作品はこれらの三つの言語の対訳を組み合わせることで構成されている。このスタイル、「百鶏」「盧倫詩塞下曲」作品を解説する格吐肯氏。会期中には格吐肯氏自身による展示解説が行われ、会場には入りきれないほど大勢の観客が詰めかけた。(御園生みのり氏撮影)「忍」「智慧是宝貝」
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