FIELD PLUS No.24
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16FIELDPLUS 2020 07 no.24や美容など様々な目的のために自身の身体に向き合い、働きかけている。その意味でトレーニングは私たちの日常生活に組み込まれるようになってきている。 私がフィールドワークを行ったイランも例外で 最近の日本では、駅前を歩けば24時間営業のジムを見かける。SNSでもパーソナルトレーナーの宣伝があふれている。筋力トレーニングは、もはや運動選手が身体のパフォーマンスを高めるために行う特別な行為ではない。一般の人々も健康はない。街を歩いていれば、ジムでウェイトトレーニングを行い、筋骨隆々のたくましい身体を作り上げ、胸を張って闊歩する男性を見かけることも多い。私が通っていたテヘラン大学の建物の中にも学生が利用することができるジムがあった。ただし、イスラームの規範に基づいているため、男性と女性は利用時間が分けられていた。 イランにおけるトレーニングへの関心は、じつは今に始まったことではない。イランにはズールハーネという、男性のための伝統的なトレーニングの道場がある。ズールハーネは直訳すれば、「力の家」を意味する。この道場で行われるズールハーネ式運動は2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録されたスポーツである。ズールハーネを見学する 2015年に、私はテヘラン大学での非イラン人のクラスメイトらと一緒に、テヘランの中心部より少し北にある、ヴァナック地区の住宅街にあるズールハーネを訪れた。建物の入り口を入り、階段を地下に降りていくとズールハーネの道場がある。道場には中央が八角形の形にくぼんだリングスポーツズールハーネで肉体と精神を鍛えるトントコ、トントコ、トントコ…打楽器の音に合わせながら、男たちが輪になってこん棒を振り回す…太古より続く価値を伝える、伝統的なトレーニング・ジムがイランにある。谷 憲一 たに けんいち / 一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程ミールを持つ男たち。(2015年、筆者撮影)腕立て伏せを行う。(2015年、筆者撮影)打楽器で運動のためのBGMを奏でる。装飾はシーア派の儀礼でも使われるもの。(2015年、筆者撮影)イランテヘランテヘラン市ヴァナック地区

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