本特集は、フィールドネット・ワークショップ「地理情報から読み解く歴史:イスラーム史におけるGISの活用」(AA研フィールドサイエンス研究企画センター主催、2019年3月)および、公益財団法人鹿島学術振興財団研究助成金研究課題「地形図から読み解く歴史:エジプトとハドラマウト(イエメン)の比較研究」(代表:新井和広)の成果の一部である。解く中東の歴史と地域の下で展開される人々の営みをも見るための媒体となることが示される。村は、中近世カイロの給水施設の建設に着目することでカイロの都市としての発展を追う。時代別の給水施設の分布図は、人々の居住・生活空間が拡大するばかりでなく、都市が発展していく過程をも映し出す。三沢は、近代にイスラーム世界を訪れた日本人の足跡をGISを用いて復元し、当時の人や物の往来をグローバル・スケールで可視化しようとする展望を示す。また、GISを利用した研究がグローバル・ヒストリー研究をも推し進めることになることを指摘する。新井は、南アラビアのハドラマウト地方に分布する聖者廟研究を事例に、GIS利用の有用性について説明すると同時に、GISの進展によってフィールド調査の必要がなくなることはなく、むしろフィールドでの経験が必要になるというパラドックスを提示する。 日本の中東イスラーム史研究は、「現場主義」を特色として進展してきた。今後、フィールドで培われた現場感覚とGISの融合が、歴史研究に何をもたらすのか、是非本特集をご覧いただきたい。王家の谷(エジプト、ルクソール)から臨むナイル峡谷(撮影/熊倉和歌子)3FIELDPLUS 2020 01 no.23
元のページ ../index.html#5