FIELD PLUS No.23
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ブルキナファソで最も一般的な主食「ト」(右)。トをつけるソースのほとんどにスンバラが使われる。ブルキナファソ版サムゲタン「プレ・クスクス」。鶏、スンバラなどの旨味がたっぷりしみ込んだクスクスは絶品。トを作るのは重労働。過去にはいかに旨いトを作るかが女性の評判を決めたという。スンバラをコメやスパゲッティと炊き合わせる「スンバラ・メシ」は街のいたるところで売られている。31FIELDPLUS 2020 01 no.23所でこれほどまでに堪能できるのはワガドゥグしかないであろう。ブルキナファソのメシの旨さの秘密 このようにブルキナファソの食文化は西アフリカの中でも特に多様なのだが、ブルキナファソにも独自の味覚が存在する。最初は無理やり飲み込んでいたトではあったが、これに添えられるソースの奥深さを理解するに従い、既知の味覚情報とブルキナファソの食文化がつながり、私はこの国の料理にどんどんハマっていくことになった。その一例を紹介してみたい。 ソースに使うのは、具材としてオクラやトヤガ(バオバブ)の葉など、粘り気のある野菜、そして、味覚の決め手となる発酵調味料と乾燥魚である。 発酵調味料の代表的なものが、「スンバラ」(ジュラ語)や「コロゴ」(モシ語)と呼ばれるものである。スンバラは一般にネレParkina biglobosaというマメ科植物の種子を発酵させた調味料で、ブルキナファソ南部ではネレの代わりに大豆を使用する。ネレの少ない北部では、ローゼル草の種子を発酵させた「ビカラガ」(モシ語)を使用する。これらの製法は、それぞれを茹でて、しばらくおくことで発酵を促すという意味で類似しており、味に関しても私には似たものに感じられるが、ワガドゥグのマーケットを見ていると、現地の人びとには違うものと認識されているのがよくわかる。どのようなことかと言えば、北部出身者が多い街区のマーケットでは、ビカラガとネレのスンバラが売られ、南部出身者の多い街区では、大豆とネレのスンバラがそろっている店が多く、その地区に住む人々の出身地と売られている発酵調味料が対応しているのである。 こうしたブルキナファソで頻繁に使用される発酵食品は、日本でもよく食べられる納豆と同じような製法で作られる。納豆と味噌は類似食品であるから、ブルキナファソで私が苦手にしていたのは、「納豆+魚出汁≒味噌汁」ということになる。こう考えなおしてブルキナファソのソウル・フードを見直すと、私が日本で食べてきたものとずいぶん似ていることに気が付くのである。こうしたことにより、私は次第にブルキナファソの食に引き込まれていったのである。 ブルキナファソの人びとは、スンバラをとにかくよく使う。まるで私たちにとってのしょうゆや味噌のようである。トのソースとしてはもちろんのこと、セネガルで広く食されている「マフェ(ピーナッツ・ソース)」にスンバラを入れたようなソースは「テゲテゲ」と呼ばれ、一般家庭でもよく出てくる料理である。また、もっとダイレクトにコメとスンバラを炊き合わせた「スンバラ・メシ」もいたるところで食べることができる。そして、極めつけは、「プレ・クスクス」である。これは、さばいた鶏の腹にマグレブ(北アフリカ西部)でよく食べられるクスクスとスンバラを炊き合わせたものを詰めて蒸し焼きにする。まるでブルキナファソ版のサムゲタンのようだ。このあたりが「西アフリカの食のカルフール」たるワガドゥグの面目躍如といったところではないだろうか。

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