ローカル・マーケットにはスンバラ売りの商人が数多くいる。スンバラは西アフリカの乾燥地で広く使われる発酵調味料。主にネレなどのマメ科植物の種子から作られる。ブルキナファソワガドゥグ30FIELDPLUS 2020 01 no.23Field+ FOOD西アフリカの食のカルフール、ワガドゥグの食文化清水貴夫 しみず たかお / 京都精華大学アフリカ・アジア現代文化研究センター設立準備室研究コーディネーター、総合地球環境学研究所研究員フィールドにおける食 私の調査地はブルキナファソを中心とする西アフリカ内陸部だ。この地域は内陸に行くほどに日中の気温は上がり、乾燥がすすむ。暑い日中、街や畑を歩き、人を訪ねて話を聞く。時に、インフォーマントの仕事を手伝う。街にいても、村にいても、フィールドでの作業はこんなことの繰り返しだ。研究室で座っていることの多い日本の生活に比べれば、フィールドという非日常では、いつも以上に体も頭も使い、刺激の多い時間を過ごすため、普段以上にカロリーを消耗する。よって、いつも以上に腹が減る。私だけではないはずだ。 しかし、私が初めてブルキナファソに滞在したときに苦しんだのは、どうしても現地食が食べられないことだった。この地域のソウル・フード、「ト(練粥)」も、その独特の食感と酸味に閉口し、無理やり飲み込んでいたような状態だった。 ワガドゥグの人びとにとっての食 特に「最貧国」とレッテルを貼られた西アフリカ内陸諸国には、指標に表れる高い貧困度から、飢餓状態にあるというイメージがこびりついている。しかし、日々の食事に困る、ということはよほどの飢饉のときに限られるし、食料不足で人間が餓死した、という話は聞いたことがない。私が調査対象とする、ブルキナファソの首都、ワガドゥグのストリート・チルドレンですら、その日食べたいものが売られている店のあたりをうろつき、好きなものを食べる。さらに、食事が口に合わないために、収容された施設を脱走したという子どもにまで出会った。子どもでこの調子である。ワガドゥグの大人たちのグルメっぷりは、言わずもがなである。 ワガドゥグの食文化の特色を一言でいえば、「西アフリカの食のカルフール(交差点)」である。特にレストランや屋台を眺めていると、この街の食事が西アフリカ各地の料理を取り入れながら構成されていることがわかる。今日はガーナ料理、明日はコート・ジボアール料理と日々の食事を選択できるのがワガドゥグの食文化の豊かさなのである。西アフリカのすべての地域を知っているわけではないが、西アフリカ諸国の多様な料理を一かブルキナファソの首都、ワガドゥグで出合う食は多様で、その様相は「食のカルフール(交差点)」のようだ。この多様さの一方、この地域で広く食されてきた発酵食品は、頑なに守られたこの地域独特の味覚を形成してきた。フィールドで出合う食の深さ、そして、食べる幸せを考えてみたい。*写真はすべて筆者撮影。
元のページ ../index.html#32