FIELD PLUS No.23
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24FIELDPLUS 2020 01 no.23う認識が強い。その芸態は、漫才やコント風のものから、時代劇のパロディまで幅広い。役者も1名から10名近い大人数で演じられるものまで様々であるし、時間も1分以内で終わるものから1時間ちかくもあるものまで、じつに多様である。さらには、芝居だけでなく、仮装パレードや造り物を「にわか」と表現する地域もあり、「にわか」という芸能をひと言で説明するのはなかなか難しい。 「にわか」の起源については不明瞭なところもあるが、18世紀には江戸や大坂の花街において座敷の余興芸として演じられていたようである。とくに大坂において、夏祭りの祭礼のなかで演じられるようになったことが、現在の「にわか」のルーツだとされる。その後、大坂では「にわか師」と称する専業者が芝居のパロディを「にわか」の題材とするようになり、明治にかけて寄席や芝居小屋などで演じられる舞台芸能として流行した。舞台芸能としての「にわか」は、上方喜劇や漫才にも大きな影響を与えたとされる。 こうしてプロの芸人が「にわか」を演じるようになった一方で、地域の人びとが祭りのなかで演じる「にわか」もある。祭りのなかで演じられる「にわか」は、かつて西日本を中心に広く分布していたが、段々と少なくなり、現在は全国で20ヶ所にも満たな「にわか」という芸能を知っていますか? 「にわか」。俄、二輪加、二〇加、などとも表記されるこの芸能について、わたしは2008年から調査研究を続けている。自己紹介で「『にわか』を研究しています」というと、大体の場合(特に東日本では)きょとんとされることが多い。いま、この文章を読んでいる読者のなかにも「『にわか』……?」と疑問に思っている方が多いのではないだろうか。 一般に、「にわか」とは最後に「落とし」と呼ばれる掛け言葉で終わる滑稽な芝居のことを指す。「にわか」という名の由来が「俄に」から来ているように、即興的で一度かぎりの演技であるとい*写真はすべて筆者撮影。高森町下町向上会の「にわか」(外げ題だい「がんばれ!高森町」)。この年は熊本地震があり、南阿蘇地域にも大きな被害が出たため、それにちなんだ「にわか」が作られた。(2016年8月17日撮影)岐阜県美濃市の美濃祭り(4月第2土日に実施)で演じられる「にわか」。この時期、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏が逮捕され、その後保釈された際に作業員の格好に変装したことが話題になっていた。そこで、作業員に扮したゴーン氏をネタにした「にわか」が作られた。(2019年4月13日撮影)長崎県新上五島町有川郷の十七日祭り(7月第4日曜に実施)で演じられる「にわか」(外題「安宅の関」)。ここの地域では、歌舞伎や時代劇などを元ネタにした「にわか」を作る。この時は、歌舞伎の「勧進帳」の有名な一場面である「安宅の関」を演じた。(2013年7月28日撮影)にわかの演技の作られ方台本なしの稽古に密着して熊本県阿蘇郡高森町で継承されている「にわか」という民俗芸能。現地調査から、毎年新作の「にわか」が演じられ、さらには台本が存在しないことがわかってきた。では、かれらはどのように演技を作っているのだろうか?松岡 薫 まつおか かおる / AA研ジュニア・フェローフィールド ノート熊本県熊本高森町阿蘇山 

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