FIELD PLUS No.23
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18FIELDPLUS 2020 01 no.23トラン、カフェなど、いずれも女性客をターゲットにした施設が次々と建設された。気になる同性の視線 サウジアラビアの女性といえば、外出時に着用する黒い長衣「アバーヤ」と、目だけを出すスカーフ「ニカーブ」のイメージが強く、画一的な服装を強いられているように見られがちだ(下の写真)。けれども、そんなイメージとは裏腹に、彼女らは服装に関する社会のルールに従いながら、それぞれにオシャレを楽しんでいる。社会が求める服装規範に従いながらオシャレをしたいのは、私たちと同様である。 家族以外の男女の交流が制限されている、いわゆる「男女隔離」の社会において、なぜオシャレが必要なのかと疑問に思う人もいるかもしれな商業関連施設の変化 私がリヤドをはじめて訪れた2000年には、「美容サロン」などほとんどなかった。当時、リヤドの日本人会が配布していた『リヤド案内』という、手作り感満載の冊子に掲載された美容サロンは、たしか2軒だった。そのうちインド人女性が自宅で経営しているというサロンを訪れたことがある。「自分へのご褒美」のために訪れたこの美容サロンはアパートのリビングルームに簡素なベッドを置いただけの空間で、日頃の疲れを癒すよりも、得体の知れないクリームを塗りたくられる不安のほうが強かった。そんなリヤドの美容事情は約20年の年月を経て大きく変わった。街中あちらこちらで美容サロンを見かけるようになったほか、美容サロンを併設した女性専用高級ホテルも出現した。それだけでなく、ショッピングモールやレスい。この疑問にはさまざまな見解があるだろうが、筆者は、女性間の厳しい目が原因ではないかと思う。サウジ社会は、異性との交流が制限されている分、女性同士の交流は活発だ。互いに容姿を褒め合うこともあるが、逆に「こうしたほうがいい」「ああしたほうがいい」と面と向かって指摘されることもあるし、陰口を叩かれることもある。女性は、同性を意識して自分磨きをする必要があるのだ。「シャワーを浴びる感覚」で 美容サロンに通うけれど…… そんな意識の高い女性たちの中には、「シャワーを浴びる感覚で美容サロンに行く」と言う人もいる。メイクや美容、ファッションに関心があるというこの女性は、ヘアカットのために週末にドバイに行くことも厭わないという。背景には、女性の教育レベルの向上と緩やかな労働参加の増加、そしてそれによって一部の女性が現金収入を得るようになったことや、2000年代以降の原油価格高騰に支えられた好景気などがある。 そんなに美容に関心がある彼女たちなら、さぞかし日々のスキンケアにも熱心なのだろうと思い、日々どんなケアをしているのか聞いてみた。すると驚いたことに、美容サロンに通う女性の何人もが、この質問に対して、意味がわからないという反応を示した。質問の方法を変えて聞き出したところ、どうやら彼女らは何もしていないらしい。シャワーを浴びる際に洗顔をして、その後は何もしない人もいれば、ホテルから持ち帰ったアメニティのクリームを塗っている程度という女性もいた。どちらの女性も、日々のスキンケアにはお金も時間も使っていない。美容サロンには足繁く通アバーヤと呼ばれる黒い長衣(2010年12月、リヤド)。はやりもの辻上奈美江 つじがみ なみえ / 上智大学*写真はすべて筆者撮影。サウジアラビアアラブ首長国連邦リヤドドバイ私はサウジアラビアの女性の消費に関する研究をしている。調査を通じて、女性たちが美容に強い関心を抱いていることがわかってきた。なかには「シャワーを浴びる感覚で美容サロンに行く」と言う女性もいるほどだが、いったいどんな美容が流行っているのだろう。美容同性を意識した自分磨き

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