FIELD PLUS No.23
19/36

17FIELDPLUS 2020 01 no.23ある時期だけ使用して、ちょっと大人になったらもう使わなくなる流行言葉だ。たとえば、以下のような大人の言葉を考えてみよう。 Kumain ka na ba? 「もうごはんを食べた?」 Anong gagawin mo?「何をしますか?」 それを子どもたちの言葉に直すとこうだ。意味は変わらない。どういう仕組みでできているかわかるだろうか。少し考えてみてほしい。 Kugumagaigin kaga naga baga? Aganogong agaagawigin mogo? 実は、上の文と下の文を比べてみればわかるように、下の文は、①上の文を子音と母音のペアに分けていき、②そのペアの直後にgとそのペアの母音を挿入したものである(たとえば、kuならkugu)。ただし、③単独の子音や既にgで始まっているペアなどについては特殊なパターンを用いる。 お気づきの読者もいらっしゃるかもしれないが、日本語にも実はこういう言葉遊びはあって、バビ語と呼ばれることもある。わたしはバビ語の話者ではないのでよく知らないが、研究室の大学院生のSさんによると「こんにちは」を「こぼんぶにびちびはば」というようだ。英語にもPig Latinと呼ばれる似たようなものがある。 このように、子どものときだけ使える流行言葉というものがある。少し大人になったら、まるで何もなかったかのように、とたんにやめてしまう。子どもたちの間だけではやっているのである。ちなみに、この流行言葉の主な用途は、大人に知られずに秘密のやりとりをすることにあるという。ただし、子どもたちが知らないのは、この流行言葉が世代を超えて繰り返し流行していることだ。今の大人たちも子どもだったときにこの言葉を使用していた可能性があるのである。残念ながら、子どもたちの秘密はすぐにバレてしまう。はやりのおわり どんな「はやりことば」にも、いつかは終わりがくる。みんなが劇的に使い出して一気に広まり、そして急に誰も使わなくなる。その終わりには大きく分けて2つのパターンがある。まず、いくつかの幸運な流行言葉は流行が終わってからもしぶとく生き続け、「ふつうの言葉」として残り続けることとなる。たとえば、tigas「硬い」→astig「かっこいい」などは、21世紀になって出版された辞書に、まるで昔からそこにいたかのような顔をして載っている(上の写真参照)。 しかし、多くの流行言葉は時間が経つにつれてだんだんと使われなくなってしまう。そんな誰も使わなくなった流行言葉を間違って使ってしまったりすると、流行に乗り遅れた人だと馬鹿にされてしまうだろう。わたしもこの前フィリピンから日本に来たばかりの10代の留学生を前に、思わずchorvaを使ってしまって笑われてしまった。流行言葉を使いこなすのは難しい。実際、今回ここで紹介した流行言葉のほとんどはあまり使われなくなった言葉である。もちろんみんな存在は知っているのだけど、あえて使わない、ある種のタブー。「はやりことばの文法」には「はやりが終わったら、もう使ってはいけない」という不思議なルールがある。 タガログ語で書かれた看板。タガログ語はローマ字をそのまま読むだけで発音できる。お店の貼り紙は英語とタガログ語の両方で書かれている。調査でお世話になっているフィリピン大学。Barrios, Joi, Nenita Pambid Domingo, Romulo P. Baquiran, Teresita Raval, Agnes C. Magtoto, Maria Cora Larobis & Ryann Kitchell. 2017. Concise Tagalog Dictionary: Tagalog-English, English-Tagalog. Tokyo: Tuttle Publishing. (p.9)Rubino, Carl R. Galvez. 2002. Tagalog-English/English-Tagalog Standard Dictionary. Revised and expanded edition. New York, NY: Hippocrene Books. (p.47)

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る