14FIELDPLUS 2020 01 no.23バリ舞踊には流行があり、新作も次々と生まれている。これまでも色々な演目が流行し、その後あるものは廃れ、あるものは定着していった。それまで廃れていた演目が何かのきっかけでリバイバルするケースもある。ルジャン・レンテンもそうしたバリ芸能のダイナミクスのなかにあるといえるが、その流行のスピードと盛り上がりが突出している。2018年に調査に行ってみると、実際色々な寺で奉納されていた。ある寺では、ルジャン・レンテンの伴奏曲が流れ始めると、ワーという歓声があがり、前方で観ていた女性たちまでが体を揺すり、いまにも踊りだしそうな勢いであった。そして踊り手たちの晴れ晴れした姿と、取り巻くスマホのカメラの数々。調査地で目にしたルジャン・レンテンには、新鮮で明るいオーラがあった(写真1)。なお、この踊りの練習に張り切る奥様連中の様子や、家に置いてけぼりにされて寂しい旦那の様子がジョークのネタになったりもしていた。男は外で社交をし、女は家事と子育てに責任を持つといった伝統的なジェンダー役割分担をわFacebookで見つけました インドネシアのバリ島の芸能を研究している筆者が見つけた「はやりもの」は、婦人たちによる奉納舞踊ルジャン・レンテンである。ルジャンとは、儀礼で神々に捧げられる神聖な群舞の一ジャンルであり、この踊りはそのルジャンの一種ということになる。筆者が大流行に気づいたのはSNS上であった。いまやフィールドワークもSNSと切り離せない。バリの友人たちにはFacebookのユーザーが多く、彼らの投稿を通して、筆者は日本にいる間も現地の芸能の動向をウォッチしている。そんななか2017年くらいから、このルジャン・レンテンを儀礼で踊る女性たちのビデオを毎日のように目にするようになった。お揃いの白いブラウスに黄色の巻きスカートを着て、かなり念入りな化粧とヘア・メイクをして、楽しそうに踊る女性たちの姿が目を引いた。伴奏曲で何度も繰り返されるキャッチーなメロディーもすっかり覚えてしまった。 一般的な「伝統芸能」のイメージとは裏腹に、ずかながら揺るがしているようにもみえた。流行の背景――中年女性の 楽しみとしてのルジャン・レンテン このルジャン・レンテン、テンポがゆっくりなうえ、動きはシンプルで繰り返しが多い。そのためどんな人でも見様見真似で踊ることができる手軽さがある。また、それに熱中しているのが、中年女性たちであるという点も特徴的である。バリの女性は、若い頃によく踊っていても、結婚した頃から舞台に上がらなくなるケースが多い。しかし、ルジャン・レンテンでは、若さや機敏さや力強さよりも、老いの美しさがにじみ出るような表現や、ゆったりとした身のこなしこそが相応しいとされるうえ、衣装はフォーマルで露出が少ない。また奉納舞踊のため、そこに参加しても、家を放り出して趣味に興じているといった非難を受けにくい。普段、着飾って踊りを披露することの少ない婦人たちにとり、この舞踊は貴重な機会となっているようだ。写真2 正しい踊り方を普及させるために作られ、YouTube上にアップされたビデオ。中央左側のグレーのブラウスがダユ。下のQRコードまたはURLから、動画をご覧ください。https://youtu.be/fpsYFXB9KQ0(2019年10月30日アクセス)写真1 ジャカルタ郊外のヒンドゥ寺院でルジャン・レンテンが踊られている様子(2018年2月15日、チネレにて筆者撮影)。 はやりもの近年バリの中年女性たちが熱中しているのが奉納舞踊ルジャン・レンテン。この舞踊は、宗教儀礼の枠を超えて様々なシーンで楽しまれるがゆえ、舞踊の神聖さとは何かという問いを巻き起こす。吉田ゆか子 よしだ ゆかこ / AA研ルジャン・レンテンバリ島でいま一番アツい奉納舞踊インドネシアジャカルタ バリ島ペニダ島
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