古代から続くキリスト教信仰で知られるエチオピア。イスラームの聖地メッカを擁するアラビア半島の対岸にあるこの地には多くのムスリム(イスラーム教徒)が暮らしている。 エチオピアとイスラームの関わりは、イスラームの創始者であるムハンマドの時代に遡り、沿岸部などでは早くから多くの住民がイスラームに改宗した。しかしエチオピアの西部において民衆にもイスラームが根付くようになったのは19世紀以降のことであった。なぜこの時期にエチオピア西部の民衆の間にイスラームが広まったのであろうか? 民衆の改宗において大きな役割を果たしたのが、スーフィー教団(イスラーム神秘主義教団)や聖者とされる人々である。あまたのスーフィー聖者のなかでエチオピア西部において今日まで崇敬を集めてきた人物がアルファキー・アフマド・ウマルである。西アフリカに生まれた彼は、メッカ巡礼の後にエチオピアを訪れ、最終的にスーダンとの国境に近いエチオピア西部のヤアに定住した。エチオピアにおいて彼はイスラームの普及につとめつつ、難病を治癒するなどさまざまな奇蹟を起こしたと言われている。彼の死後、ヤアに設けられた彼の墓廟には、宗教の垣根を越えて多くの人々が参詣し、共に祈るようになった。 この特集では、アルファキーという聖者を通してエチオピア西部のムスリムの信仰の様子にせまる。まず石原はアルファキーの人生と彼の功績について解説する。松波はアルファキーの墓廟があるヤアの住民による参詣者に対する歓待について述べる。そして吉田はアルファキーの息子が住む集落における祈りの風景を描く。 エチオピアの西部で長年にわたってフィールドワークを続けてきた研究者たちが心動かされた聖なるものについてご覧いただきたい。責任編集 石川博樹本特集は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「エチオピア・ジンマ王国伝来イスラーム祈祷集研究」(代表:石川博樹)、および科学研究費補助金基盤研究(B)「エチオピアにおけるイスラーム化の史的検証:アラビア文字資料の収集・分析を通して」(代表:石原美奈子、課題番号17H04528)の成果の一部である。アジスアベバジンマ(pp.6-7)デンビドロ(pp.6-7)ヤア(pp.7, 8-9,10-11)アソサ(p.7)トリ(pp.10-11)スーダンエリトリアサウジアラビアエチオピアソマリアイエメンジブチタナ湖青ナイル川紅海アジスアベバ南スーダンナイル川白ナイル川3FIELDPLUS 2019 07 no.22
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