FIELD PLUS No.22
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16世紀デンマークの博物学者オレ・ワームの「驚異の部屋」。彼の死後、1654年に出版された『ワームのミュージアム』表紙図版より。ミュージアムの外観。MJT館内マップ(同館の公式カタログより)。アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスカルヴァーシティハリウッド30FIELDPLUS 2019 07 no.22Field+ミュージアムをフィールドにして歴史に思いを馳せるミュージアム・オブ・ジュラシック・テクノロジー(LA)小森真樹 こもり まさき / 武蔵大学ミュージアム「を」研究する ミュージアムとはいかなる場所だろうか。「美術館」や「博物館」と聞くと何を想像するだろう。古来伝わる宝物や、インパクトあるアートを展示している空間だろうか。なかには、ラーメン等の飲食店が集合するテーマパークを思い浮かべる人もいるかもしれない。 筆者が専門とする「ミュージアム研究」は、ミュージアムという場所について様々な角度から研究をする分野である。筆者がフィールドにするアメリカのミュージアムをひとつ紹介してみよう。 ミュージアム・オブ・ジュラシック・テクノロジー ミュージアム・オブ・ジュラシック・テクノロジー(以下、MJT)は、ハリウッドにほど近いカルヴァーシティにある小さな博物館である。2時間もあれば30の展示室をもれなく見ることができる。1988年にデヴィッド&ダイアナ・ウィルソン夫妻が創設した。洋の東西、時代の新旧を超えて各国から集めた一風変わった品々が展示されている。 展示物を見てみよう(右ページの写真)。「マイクロミニチュアの珍世界」は、人の毛髪を様々なモチーフに削り、裁縫針の穴の中に嵌め込んだ彫刻の展示だ。針にじっと目を凝らしてみると、異様に小さなナポレオン1世、ミッキーマウスや白雪姫だとわかる。「完全なる動物たちの人生」は、ロシアのロケットで初めて宇宙に旅立った犬たちの肖像画展。「蜂に言いなさい」は、科学的思考が普及する前の時代の治療法に関する解説。食パンにネズミを乗せて食べると子供のオネショに効くのだ、といったちょっとユーモラスな故事が紹介される。 一体何なんだこれは……? 飛び込みの客が目を丸くしているのをよく見かけた。 迷路の如く仄暗い通路、ブロードの絨毯敷、バロック調のティールームを備えた展示室に所狭しと収集品が並べられている。ルネサンス期の欧州では、王侯貴族が財産に任せて世界中の珍品奇物を蒐集したが、同館はそうした「驚異の部屋」の現代版とも称される(上の写真)。展示では、17世紀の「ルネサンス・マン」たる博覧強記の学者アタナシウス・キルヒャーが、発明品・収集品を驚異の部屋に展示していたことが紹介され、展示内容からも館長の狙いがうかがえる。しかし、同館の名称は「ジュラ紀の技術の博物館」という意味だ。そのコンセプトは「後期ジュラ紀に関する理解を公衆に広めることを目的とする博物館」だと説明されているのだが、恐竜や化石といった、ジュラ紀に関連する展示は一切見当たらない。扱わない理由も全く言及されていない。ミュージアムで歴史を語り、記憶する さて、一歩引いて考えてみよう。例えば、ミュージアムの歴史と機能について考えてみる。「ミュージアム研究」という学問がある。ミュージアムを通して世界を見る方法だ。世の中には山ほど変わったミュージアムがある。「なんだこれ?」と思うような所でも実は研究の対象になる。一風変わったミュージアムを訪れ、歴史の記憶に思いを馳せてみよう。*写真はすべて筆者撮影(2011年3月)。

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