FIELD PLUS No.21
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20FIELDPLUS 2019 01 no.21フィールドまでの道のり 南オモ県の「オモ」とは、この地を流れるオモ川からとった名です。この一帯はオモ川を挟んで低地が広がっており、オモ国立公園やマゴ国立公園といった野生動物の保護区が置かれています。それだけではなく、この川の流域からは約250万年前のアウストラロ・ピテクスの骨から、約20万年前のホモ・サピエンスの骨まで、人類の進化の証拠が次々に発見されています。この地には、気の遠くなるような昔から人類が暮らしていました。 では、私が調査している南オモの諸言語はどれほど古いものかという興味がわきますが、それは分かりません。私が調査を始めた2006年当時、ハマル語のまとまった辞書や文法書など無く、数百語の語彙集と報告書、論文がいくつかあるだけでした。この一帯の言語の多くは、十分な調査がなされていないか、手つかずのままなのです。 その大きな原因は、道のりの遠さにあるでしょう。首都アディス・アベバから、南オモの県都ジンカまでおよそ700km。早朝のバスでアディス・アベバを出発し、ジンカに到着するのは翌日の午後になります。そこからハマル族の多言語国家エチオピア エチオピアには80以上の民族が暮らしており、それぞれが母語を持っています。母語となる言語は主に、アフロ・アジア諸語に属するものと、ナイル・サハラ諸語に属するもの、その他のアフリカ諸語(分類不明のものを含む)に分けられますが、これらのグループの中身はもっと細分化されますので、同じグループの言語を話す人同士でも言葉が通じるとは限りません。そこで、エチオピアの憲法(第5条)は、歴史的に主導的な立場にいたアムハラ族のアムハラ語を国家公用語として定めるとともに、それぞれの州ごとに別の公用語を定めて良いとしています。 さて、私のフィールドはエチオピアの南部諸民族州、その中でもケニヤと国境を接する南オモ県です。南オモ県には12以上の民族が住んでいますが、私はこれまでハマル族のハマル語を中心に、バンナ語、カラ語の調査を行ってきました。橋が落ちたので仮橋をバスが渡ります。 調査の前にインジェラで 腹ごしらえ。 ハマル族の青年と。南オモの諸民族(南オモ研究センターに展示)。エチオピア南部諸民族州南オモ県紅海アデン湾オモ川アディス・アベバジンカ民族と言語のるつぼ、エチオピア。その南部に分布する多くの言語は、まとまった調査研究がなく、言語実態も不明です。現代社会における少数言語は今後どうなっていくのか、エチオピアは一種のモデルケースです。私のフィールドワークエチオピア少数言語の多様な言語実態を探る髙橋洋成 たかはし よな / AA研特任研究員 

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