FIELD PLUS No.21
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18FIELDPLUS 2019 01 no.21エチオピアエリトリアアディス・アベバアクスムダンカズアドゥーリスアスマラタナ湖ア デ ン 湾紅 海ナイルエチオピア高原の食 私はアフリカ北東部のエチオピアからエリトリアにかけて広がるエチオピア高原の歴史を研究してきた。AA研に入所後、それまで行っていた個人研究を継続しつつ、アフリカの農業と食文化の歴史に関する共同研究を開始した。2016年に出版した『食と農のアフリカ史』(昭和堂)という編著は、この共同研究の成果である。 本書の目的はアフリカの食文化や農業にまつわる歴史研究の可能性を提示することであったが、編者としてこの編著をまとめたことは、私にとって新たな課題を得る貴重な体験となった。例えば、穀物の粉を熱湯で捏ねた東アフリカのウガリはしばしば「アフリカの食」の代表とされるが、ウガリと同様の食品はアフリカの広い範囲に分布している。その中でインジェラと呼ばれる異なる食品が主食となっているエチオピア高原の食文化をどのように大陸内の食文化のなかに位置づけるべきかという問題は、大陸を俯瞰して食文化について考察しなければ得られない課題であった。 エチオピア高原は作物の栽培起源地の1つである。この地で栽培化された作物のなかで特に有名なのがテフという作物である。テフの極めて小さな実を挽き、水で溶いて発酵させて焼いたものがインジェラである。少々厚いクレープ状のインジェラは、この地を代表する食べ物となっている。アフリカの食の特色の1つは主食と副食の区別が存在することであるが、インジェラもおかずとともに食べる。おかずは、豆などの1つの材料のみのものの場合もあれば、肉、野菜、豆でつくったいくつもの料理を彩り鮮やかに添える場合もある。最も有名なのは、バルバレというトウガラシなどでつくった辛みの強い調味料を使って鶏肉を煮込んだドロ・ワットと呼ばれる料理である。食べる際には、インジェラを端からちぎり、それでおか史跡を巡り、ごちそうに出会う「フィールドで見つけたごちそうとは?」とあらためて聞かれると、悩んでしまう。ここでは歴史学研究を行っている私が、アフリカの史跡をめぐる旅のなかで出会い、脳裏に刻まれている「ごちそう」について書こうと思う。インジェラのおかずは肉や野菜の料理であることが多いが、エチオピア最大の湖であるタナ湖のほとりでは、水揚げされた魚の煮込みをおかずにしたインジェラを食べることができる。イタリアの植民地であったエリトリアの首都アスマラには、イタリア人が建設した建築物が残っている。これはイタリア植民地期に建築された映画館。アスマラには今なおイタリアの食文化の面影が残り、パスタやピザを食べ、エスプレッソを飲むことができる。これはアスマラのレストランで食べたペスカトーレ。エリトリアの首都アスマラのレストランのインジェラ。右の皿の上に折りたたまれているのがインジェラで、左の皿には何種類ものおかずが彩りよく盛られている。ごちそう石川博樹 いしかわ ひろき / AA研*写真はすべて筆者撮影。

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