包パオズ子や煎チエンピン餅などを朝食に買う人の列は、上海らしい光景だ。近年日本と中国の関係が密接になり、国境を越えて移動する人々が増加している。その中で多様化する子どもや家族の経験はなにを物語っているだろうか。女性の国際移動と子どもたち 私たちを取り巻く社会や文化のグローバル化が進む中、従来男性の経験を中心に研究される傾向があった人の国際移動において、男性とは異なる女性の移住経験に注目が集まっている。たとえば、女性は男性の移住の後に、妻や婚約者として呼び寄せられるなど、家族との合流を目的に移動することが多い。他方、産業構造の変化により、女性が担うことの多い介護や家事労働、サービス業などで働くために移動する女性も増加している。 私は1990年代半ば以降、香港や上海などの「アジア」で現地採用や起業者として働く女性の単身移住を調査してきた。円高による海外渡航費用の減少、日本と中国や東南アジアとの経済関係の密接化によって就業の可能性が高まったことなどの経済的な要因と、職場や家族内でジェンダー分業が強い日本と比べて、外国では性差にかかわらず生活を選べるという認識の広まりが、単身で移住する女性の増加を説明する。そ*写真はすべて筆者撮影。上海に住む日本人は口をそろえて、今の上海での生活が便利すぎて日本に戻るのが不安と言う、その代表格がこのレンタル自転車だ。スマホで解錠し、目的地で乗り捨て可能。上海日本人学校紅橋校は古北にあり、周辺には多くの日本人が住む。浦東にあるもう一校は中学、高校を併設している。のため、結婚や家族との合流ではなく、単身で移住し海外で働く女性を主要な調査対象としてきたのである。 しかし、アジア域内の結婚移民を調査対象とする研究者との交流は、結婚移民を個人的な移住から区別してきた自分の思い込みに気づくきっかけとなった。結婚移民といっても、結婚は単なる移動の手段ではない。結婚が国際移動のきっかけとなる者もいれば、移動の過程で結婚に至ることや、結婚が移動を妨げることもある。2010年頃から、私は中国人の夫を持つ日本人女性を調査し、単身女性や男性の移動と異なり、配偶者や子どもとの関係、特に子どもの教育や言語、将来の子どもたちの生活への関心が、彼女たちの選択に影響を与えていることを知った。その語りを通して、日中間を移動する子どもたちの生活や多様な選択日中国際結婚と子どもたち 日中国際結婚の世帯で生まれた子どもたちの国籍や居住地、今後の展望、使用言語や生活のスタイル、国との関わり方には多様性があるが、共通して、複雑な文化や社会状況に直面している。日本も中国も親の国籍を引き継ぐ「血統主義」と単一国籍制度を取り、言語や文化の共通点を強調する傾向がある。だが彼らの経験はこのような制度とは適合しないためである。 Aさんは、留学中に結婚した中国人男性との間に生まれた子どもの出生届を領事館に出した。国外で生まれた日本人の子どもは、この手続きをとることで、日本国籍を留保し、帰国時に日本国籍を取得できる。Aさんの子どももこのように日本国籍を取得した肢にふれていくことになった。中国北東部(旧満州)瀋陽上海香港名古屋東京大阪6中華人民共和国日本日本と中国を移動する子どもたち複数の文化間での葛藤を乗り越える酒井千絵さかい ちえ / 関西大学、AA研共同研究員
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