(4) 整理する(調査を終えたら、ノートに聞き取った発音の一覧を書き出す) 写真1 多良間島のさとうきび畑。集落を離れると、さとうきび畑が延々と広がっている。写真2 伊江島の中心にそびえる城山(ぐすくやま)。頂上からは島全体が見渡せる。 琉球列島のことばを記録する 音楽、住居、草木、動物……興味の対象は人によってそれぞれであるが、フィールドワーカーがわざわざ現地に行く目的は、多くの場合、記録することだ。資料を読んだだけではわからないような生の情報や実験室では再現しきれない自然の情報を直接見聞きし、体験し、記録するためにフィールドを訪ねる。 私の場合、その地で話されていることばをより深く知るためにフィールドを訪れる。私の専門とする地域は琉球の島々である(写真1、2)。これらの島々では、日本本土のこと琉球諸島那覇 写真3 初めて多良間島でフィールドワークをおこなったときのノート。黒ボールペンで書き込んだ項目があらかじめ用意しておいた調査項目である。調査中に聞き取った情報は鉛筆で記入してある。フィールドノートの役割 1回の言語調査は、大まかに言えばとは異なる言語的特徴がみられる。とくに音声面での違いは大きい。同じ日本で話されていることばとは思えないくらい違うので、初めて聞くとまるで異国の言語を耳にしているかのような気分になる。私は琉球の島々を訪れては、琉球独自の珍しい音声を録音し、その特徴の詳細を記述・分析している。 琉球列島は島や集落によって方言の差がとても大きい。「琉球のことば」と一口には言えないほど互いに異なる特徴を持ったことばがそれぞれの島や集落で話されている。音声面に限って言っても、母音が3しかない方言から7もある方言もある。子音が10に満たない方言から25もある方言もある。アクセントも多種多様だ。そのような違いがどのようにして発達してきたのかというのが私の今のもっとも関心のある問いだ。っっz記録が仕事であるフィールドワーカーにとって、ノートは必携アイテムの一つである。それだけにフィールドワーカーの個性やこだわりが際立つアイテムでもある。使い勝手のいいノート、より良いノート術を求めて、私たちは試行錯誤を繰り返す。ば、以下のような流れで進む。 (1) 質問する(あらかじめノートに用意しておいた調査票に従って話者に質問をして発話を促す) (2) 書き取る(話者の発話や気づいたことをノートに書き留める) (3) 真似する(話者の発音をよく聞き、真似してみる。このとき(2)のメモも参考になる) いずれの工程においても重要な役割を果たすのがノートである。写真3は初めての調査で私が実際に使ったノートの見開きである。 聞き出した単語の発音だけでなく、話者が教えてくれた関連する単語や表現も記録してある。黒、赤、緑と鉛筆の色を変えてあるのは、どのタイミングで書いたメモなのかを区別するためである。つまり調査時のメモは黒の鉛筆で、調査後に気づいたことは色鉛筆で日付を添えてメモしてある。ノートの所々には「?」が付されている。これはその場で発音がうまく真似できなかったところや充分な分析ができなかったところであることを示している。このような疑問は次の調査までに整理しておいて、話者に改めて確認をしなければならない。 フィールドでとる記録は、調査項30与那国島*写真はすべて筆者撮影。石垣島西表島宮古島多良間島東シナ海沖縄諸島太平洋伊江島久米島沖縄島青井隼人 あおい はやと /AA研特任研究員、国立国語研究所特任助教Field+NOTEBOOK飽くなきフィールドノートの追求
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