台湾における結婚移民と移民第二世代の「新住民」は今や台湾人の重要な構成員となった。東南アジアとの関係強化を図る政策において、彼らは急遽「東南アジア人材」として注目を浴びているが、親は、子供たちはどう受け止めているのであろうか。台湾の「新住民」の子供たち 台湾の住民といえば、1949年以降中国大陸から台湾へ渡ってきた外省人とそれ以前から台湾島に住んでいた本省人、もしくは民族的には漢族とオーストロネシア語族系先住民族からなることが知られている。しかし、近年国際結婚や移住による「新住民」が加わっている。その子供たちは、移民第二世代と呼ばれ、さらには中台関係が緊張を増す中、「台湾の救世主」としてもてはやされつつある。*写真はすべて筆者撮影。東南アジア出身の結婚移民にとっての「母の味」を体験してもらう展覧会(2017年)。アミ手製のインドネシアのお菓子ダダールグルン(2017年)。台湾における国際結婚と結婚移民 「南の女性が北の男性へ嫁ぐ」という、発展途上国出身の女性が先進諸国の男性と結婚し移住する現象は、1970年代以降、世界的に生じている。先進諸国において女性の社会進出が進むと、家事や育児、介護などの再生産労働への需要が高まり、その労働の担い手はより経済規模が小さい国に求められた。この潮流には、家事・介護労働者だけでなく、国際結婚をした結婚移民の移動も含まれる。 台湾でも1980年代に国際結婚ブームが起こり、1990年代後半から2003年にかけてピークを迎えた。中国やインドネシア、タイ、ベトナム、カンボジア出身の女性たちが、台湾人男性の配偶者となるべく移住し、「新住民」(530,512人、2017年12月現在)と呼ばれている。そして新住民の子供で小中学校に通う学生は、181,301人に達し、全体の約10%を占めている(2017年12月現在)。国際結婚と子供たちを取り巻く政策の変化 2000年代前半、国際結婚は「社会問題社会問題の源から模範的新住民へ? 2018年3月現在、台湾のメディアでは偏見に耐え非常な努力の末、成功を収めた新住民を讃える物語が溢れている。新住民で国立名門大学に合格した若者、スポーツで非凡な成績を収めた若者……。2016年、の根源」であると見なされ、世論は家庭の不和や子供たちの学習障害、親の教育能力の欠如をことさら強調した。2004年には「新台湾の子」という呼称が、結婚移民の第二世代を指して用いられるようになったが、台湾社会の競争力を削ぐ懸念材料として負の意味合いで呼ばれ、子供たちもスティグマ化されていった。 しかし近年、子供たちは一転して「台湾の救世主」と言わんばかりに持ち上げられるようになっている。この変化は、台湾と中国との政治経済的関係の変化と深く結びついている。 1991年以降、台湾企業は中国への投資を増大させてきた。中国への経済依存を是正するため、政府は1994年以降「南向政策」として東南アジアへの投資を呼びかけてきた。しかし、得られる利益は対中投資によるものに大きく及ばなかった。2003年に陳水扁政権が台湾独立を問う国民投票の実施を議題に上げると、中国は包囲網を発動し、ASEAN(東南アジア諸国連合)と緊密な関係を築き、台湾の東南アジア投資をけん制した。このように台湾企業による東南アジアへの投資は予想通りの成果が得られず、対中投資依存は依然継続していった。 2016年、蔡英文政権が発足すると、「新南向政策」を策定し、東南アジア諸国に加え、インドやオーストラリア、ニュージーランドと貿易・科学・文化面で連携し、市場を共有することを提唱した。その一環として政府は10億元(約40億円)を投じ、ASEAN諸国出身の留学生を受け入れ、台湾とASEAN諸国の架け橋となる人材の育成に乗り出した。 さらに東南アジアにルーツの一端を持つ、新住民の子供たちにも白羽の矢が立てられた。母の出身社会の言語や文化に通じていることは、「東南アジア人材」の素質あり、として肯定的に評価されるようになった。台中市台北市8台湾アミ手製のインドネシアのお菓子クエ・マルメール(2017年)。「東南アジア人材」という表象を泳ぐ子供たち台湾・結婚移民の第二世代横田祥子よこた さちこ / 滋賀県立大学、AA研共同研究員
元のページ ../index.html#10