3FIELDPLUS 2018 01 no.19レバノン共和国の首都ベイルートの中心部。イスラームのモスク(礼拝場)とキリスト教の教会が隣接して建設されている。(筆者撮影、2016年6月) in the Middle East 文明誕生の地の一つである中東あるいは西アジア地域には、昔から異なる境遇の人びとが暮らしていました。彼らは、それぞれの言語を操り、またそれぞれの宗教を信仰していました。世界に数ある宗教のうち、一神教であるキリスト教やイスラーム(イスラム教)はこの西アジア地域で成立し、世界に広まっていきました。現在この地域はムスリム(イスラーム教徒)が多数を占めていますが、同時に少なからぬ数のキリスト教徒も暮らしています。またイスラームの中にも、スンナ派やシーア派というように、幾つかの宗派があります。さらにユダヤ教徒など、イスラームやキリスト教以外の信仰を持つ人も暮らしています。時として民族的違い、言語的違い、また宗教的・宗派的違いに起因した対立や紛争が生じる一方で、この地域では人びとが何世紀にもわたって共存してきました。 20世紀の中東における近代国家の成立過程において、国境線が人為的に引かれました。そのさい、例えばクルド人のように、数の上ではある一定の地域で多数を占める集団が、トルコではトルコ人に対して、またイラクではアラブ人に対して、民族的にも言語的にもその国内で少数派に転じる、という現象も生まれました。少数派は時として生命の危険をはじめとする様々な困難に直面しますが、一方で彼らは、社会の発展において重要な役割を演じています。少数派として規定される人びとの諸活動に目を向けることで、私たちは中東地域の特質を把握することができ、また他者との共存の術などを学ぶことができます。 現在、中東社会の特質の究明を最終的な目標として、中東各地に暮らす少数派の歴史的そして現在の動向を追う、計11名からなる国際共同研究プロジェクトが進行中です。今回はその成果の中から、オマーン、シリア、トルコ、そしてエジプトで暮らす人びとの様子について、みていきましょう。この特集は、AA研共同利用・共同研究課題「中東社会における宗教宗派的・政治社会的少数派に関する研究」の研究成果の一部です。責任編集 近藤洋平ポルトガルの「ファティマの聖母像」が安置された輿を取り囲むレバノンの人びと。宗教は現在でも中東に暮らす人びとの拠りどころとなっている。2015年6月、ベイルートにて。(筆者撮影)
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