FIELD PLUS No.19
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30FIELDPLUS 2018 01 no.19マレーシアインドネシアボルネオ島マレー半島シンガポールクアラルンプールジョホールバールムラカコピティアムとはなにか マレー半島のマレーシアとシンガポールは、主にマレー人、中国南部出身の華人、南インド出身のインド系の人びとによって構成される多文化社会である。そのマレー半島には「コピティアム」と呼ばれる珈琲ショップが人びと(特に華人)の憩いの場所として日常生活に定着している。例えば、シンガポールではHDBと呼ばれる公団住宅に必ずと言っていいほどコピティアムやフードコートが入っていて、朝に夜に人びとの胃袋を満たし団地に暮らす人びとの交流を促す重要な社会空間として機能している。また、マレーシアにおいてもコピティアムは商店街や街角には欠かせない風景となっていて、酒よりも甘い珈琲や紅茶が好まれる土地柄からか、老若男女が早朝から夜半まで飲み物を片手に賑やかに談笑する姿を見ることができる。 筆者も、ムラカから車で1時間の距離のマレーシア・ジョホール州の調査地に到着すると現地の友人や家族がバス停まで迎えに来てくれて、まずはコピティアムで冷たい飲み物を飲み互いの近況報告をするのが常だ。家はすぐそこにあるけれど、まずはコピティアムに行く。高い天井に据え付けられた扇風機が生ぬるい午後の空気を撹拌し、アイス珈琲が喉を潤すと、ああ、マレーシアに戻って来た!と改めて感じる。コピティアムは久しぶりに戻って来た「家族」がくつろぐ応接間のような場所として人びとの日常にある。 そんなコピティアムでは、練乳の入った甘く濃厚な珈琲やブラック珈琲、練乳入りの紅茶などの飲み物が看板メニューだ。その他、炭火で焦げ目をつけたトーストに、東南アジアではお馴染みの香ばしいバニラのような香りが特徴のパンダンリーフで香りづけしたカヤジャムとバターをたっぷり塗ったカヤトーストも外せない。蒸し暑い南国では、好みの飲み物を片手に甘いおやつを食べてゆったり過ごすことは何よりも愉しい時間の過ごし方である。実際、珈琲ショップはマレー半島の両国において誇るべき「私たちの文化遺産」と認識されている。人の移動と食文化の変化 マレー半島に深く根ざすコピティアムではあるが、その歴史は意外に新しく、19世紀後半から20世紀初頭にかけて中国海南島出身者によってマレー半島にもたらされた飲食文化だとされる。シンガポール国立博物館の生活展示によると、コピティアムはマレー半島に単身で渡来した中国出身の男性労働者に簡単な朝食を提供する屋台として、1930年代頃に始められたものだという。1950年代になると麺料理や粥などの温かい料理も提供されるようになマレー半島の中国系珈琲ショップ、「コピティアム」では中国茶ではなく、珈琲やパンが供される。コピティアムがどのように今の形になったのか、その経緯をたどることで多文化社会について考えてみよう。Field+CAFÉコピティアム、多文化社会のごった煮的食文化櫻田涼子 さくらだ りょうこ / 育英短期大学マレーシアで300店舗以上のチェーン展開をするコピティアム、オールドタウン・ホワイトコーヒーの本店とされるマレーシア・ペラ州イポーの南香茶餐店の様子。コピ(珈琲)は1杯40~60円程度。レンゲで珈琲をすすりながらゆっくり飲むのがマレー半島の流儀だ。砂糖の摂取量が多いマレーシアは糖尿病罹患率が世界的にみても高く、食堂入り口などには、砂糖の使用を控えるよう促す保健省の広告が並ぶ。オールドタウン・ホワイトコーヒーのアイス珈琲(コピアイス)とカヤトースト。トーストの間に挟まれているのはバターの塊。

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