FIELD PLUS No.19
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26FIELDPLUS 2018 01 no.19フロンティアJ-POPと言語学のあいだで 平田 秀 ひらた しゅう / AA研特任研究員ことばを使うものであれば、なんでも言語学の研究対象になりえます。今回は、日常耳にするJ-POPについて言語学の観点から、リズムの単位が「モーラ」なのか「音節」なのかをめぐってお話ししたいと思います。旧式のiPodと、オリコンチャートのデータをまとめた本と、楽譜集です。私が歌の研究の際に使っている、れっきとした資料です。私をかたちづくるもの 私の趣味は日本のヒットチャートのチェックです。四半世紀近くオリコン社が発表するヒットチャートを毎週欠かさずチェックしています。オリコンチャート発表の場が週刊誌からウェブサイトに移った今も、毎週チェックしています。 大学生になって言語学を学びはじめました。読んだ言語学の本に、童謡・唱歌の日本語のリズムについて述べられた箇所がありました。そのとき、「ヒットチャートに載るような歌のリズムはどうだろう?」と考えたことをよく覚えています。その後、日本語の歌のリズムについての研究をするようになりました。今回は、みなさんに言語学からみた日本語の歌のリズムについてお伝えしたいと思います。日本語のリズムをどうやって数えるか? 歌の話に入る前に、日本語のリズムを数える・区切る単位についてお話ししたいと思います。 みなさんはモーラという言葉をご存じでしょうか。日本語の音について使われる言語学の用語・概念です。用語としては初めてかもしれませんが、指している概念はおなじみのもので、たとえば俳句の五七五を数えるときにこの概念を使っています。モーラのことを「拍」と呼ぶこともありますが、音楽にも拍という概念があるため、今回取り扱う言語学の概念のことは「モーラ」に統一します。「とうきょう」はと/う/きょ/うというように、4つのモーラに分かれます。だいたいの場合でひらがな・カタカナの1文字分=1モーラですが、先ほどの「きょ」で出てきた小さい「ゃ・ゅ・ょ」は、その直前のかな1文字分との合計2文字分で1モーラです。小さい「ぁ・ぃ・ぅ・ぇ・ぉ」も、直前のかな1文字分と合わせて1モーラです。それに対して、小さい「っ」はそれ単独で1モーラになります。ファックスはファ/ッ/ク/スというように4つのモーラに分けられますね。 それに対して、同じく日本語の音についての用語・概念に音節というものがあります。こちらは少し複雑です。音節には2種類があり、1モーラの音節と、2モーラの音節があります。2モーラの音節が出てくるのは、以下のa〜dが関係する場合です。  a. ‌二重母音の後半部分の「い」(『愛』の『い』など) b. ‌のばす音の後半部分(『バー』の『ー』、『今日』の『う』など) c. 撥音(『ん』) d. 促音(『っ』)  a〜dは特殊モーラと呼ばれていて、「『ん』や『っ』で始まる単語は基本的にない」というように、「か」や「さ」などの普通のモーラと違う性質をもつため、特別扱いされているモーラです。特別扱いされていますが、れっきとした1モーラです。ところが、音節という単位でとらえるとき、特殊モーラは半人前として扱われます。「か」や「さ」などは1モーラで1音節と数えるのに対し、以上のa〜dについては、それ単体では音節になることはできず、その直前の1モーラと合わせて、2モーラで1音節と数えます(図1)。 このように、日本語のリズムを数える単位にはモーラと音節の2つがあります。この2つの用語を使って、日本語の歌のリズムがどうなっているかについて見ていきましょう。日本語の歌のリズムはどうなっているか? 日本語のリズムを数える単位にはモーラと音節の2種類があります。それでは、日本語の歌はモーラと音節のどちらをリズムの単位にして作られているのでしょうか。

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