なかった。そこでまず、どこにどんな遺跡があるのかといった基礎データを獲得し、将来的に発掘調査をおこなう遺跡の選定を目指して、調査をはじめた。 とはいっても、調査地域をただやみくもに歩き回るわけではない。先行研究にくわえて、地図や航空写真、現在では衛星画像をも入手して、地形の特徴をよみこみながら、どこに遺跡がありそうなのか、事前に細かい下調べをするのである。また、地元の自治体や教員、歴史好きの人などへのインタビューを通じて、遺跡に関する情報を集める必要もある。そしてこの際、毒蛇の多い場所だから遭遇しても触るなとか踏むなとか、あまり意味のない対処法も含めて、対人+対動物の安全面での情報も聞いておくのである。歩きながらよむ 事前の下調べをもとに、川を渡り、山をのぼりおりして、遺跡を記録する。元気なのは朝方くらいで、正午近くからは暑さで頭が働いていないこともあるが、共同調査者と冗談をかわしながら、なんとか切り抜けていく。 この調査時に重要なのは、周囲の地形や生態環境を常にチェックすることである。とくに山の頂上部や斜面には、人の手が加えられて建造物が築かれる場合も多い。これらのことは、地図や画像だけではなかなかわからない。なお、私は遺跡探しが癖になってしまったのか、どこにいっても周囲の山の形などが気になるようになってしまい、はじめての場所にいくとよくキョロキョロしているらしい。また、調査時には通りすがりの人や農作業をしている人など、地元住民へのインタビューが欠かせない。なぜなら、彼らは土地のことを熟知しており、遺跡に関する極めて重要な情報をもっていることが多いからである。 遺跡に着くと地表面を徹底的に観察し、建造物と遺物の特徴を記録する。遺跡の機能や利用時期などを検討するためである。だから、考古学者は遺跡に行くまでは上を向いて歩き、遺跡に着いたら下を向いて歩く傾向にある。決してしょんぼりしているわけではなく、前向きに下を向いているのである。こうして、遺跡の立地や分布に関する傾向を徐々につかんでいく。歩いた後でよむ 調査がおわると、獲得したデータをまとめて、ワンカバンバ川流域で繰りひろげられた長期的な人間活動の実態に迫っていく。調査で確認した遺跡の分布を地図上に示すだけでは不十分で、考察という点ではここからが本番である。まず、地表面で観察した各遺跡の建築特徴や規模、土器や石器などの遺物から、各遺跡の建設・活動時期を特定する。次に、二つの調査方法 アンデス山脈の東斜面をアマゾンの熱帯低地へと流れるワンカバンバ川。その流域では標高によって多様な生態環境がみられる。私のフィールドの平均気温は冬(6月から11月)でも20℃から25℃あり、強烈な日ざしがふりそそぐ。目に痛いほどの青空の下、アンデス文明の形成過程の解明を大きなテーマにかかげて、私がおこなってきた考古学調査は大きく二つある。一つは調査地をくまなく歩き回って遺跡を記録する分布調査、そしてもう一つが特定遺跡の発掘調査である。歩く前によむ 分布調査の主な目的は、地域の全体像の把握である。ワンカバンバ川流域の場合は、先行研究がほとんど歩いて、掘って、よむ山本 睦やまもと あつし / 山形大学考古学調査では文献以外になにを「よむ」のだろうか。私がこれまでにおこなってきたペルー北部地域での調査経験をもとに、考古学調査ならではの「よむ」ことについて考えてみた。よむ 2ワンカバンバ川遠景。ところどころの斜面や丘に、手が加えられた場所が確認できる。遺跡を探し、歩く。橋がないところも多いので、歩いて川を渡る。16FIELDPLUS 2018 01 no.19
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