FIELD PLUS No.19
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13FIELDPLUS 2018 01 no.19言語学 今号は「よむ」という行為を手掛かりにして、歴史学、考古学、言語学を専門とする3名の研究者に寄稿していただきました。 古代トルコ民族史を専門とする鈴木宏節さんは、過去の研究における誤りをただすため、また新しい発見を求めてモンゴルでフィールドワークを行ってきました。草原に立つ碑に刻まれた古代文字の解読は、まさに現地でしかできない「よみ」の成果と言えるでしょう。 アンデス考古学者の山本睦さんは、遺跡をどうよむかについて、具体的なアプローチを明らかにします。遺跡の調査では、地形・環境に始まって発掘の結果現れる地層まで、さまざまなレヴェルの「よみ」を必要とすることがわかります。とくに、遺跡そのものの分析は「3次元立体パズル」を解くようなものであると山本さんは説明するのです。 長い間文字で書かれることが無かったアイヌ語の研究においてさえも、「よむ」ことが重要な手法のひとつとなっているようです。動詞を分析する小林美紀さんは、消滅危機言語であり話者の限定されている現在のアイヌ語研究においては、とりわけ編纂された辞典をよむことが大きな意味を持つことを示しました。なおそれでも、聞き取りによって明らかになることもあり、むしろフィールドワークとの併用が必要になると言った方がよいのかもしれません。 「よむ」という言葉からは、書籍や文書などの紙媒体に接することを想像しますが、フィールドでの「よみ」も加えて、それぞれの専門分野に適した文献調査とフィールドワークの組み合わせがあることが3本の記事からわかります。共通項としては、広い視野で多くの情報を取り込み、対象を「よむ」ことが求められているということではないでしょうか。それぞれの調査・研究の醍醐味を感じとっていただければ幸いです。 〈野田 仁 記〉

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