東洋と西洋を結びつける中央アジア。古来、多様で豊かな文化が栄えてきた地域である。そして、その音楽文化もヴァラエティに富んでいる。楽器の種類も実に多い。これからその一端を覗いてみることとしよう。イスタンブルトルクメニスタンカザフスタンクルグズスタンウズベキスタンアルマトゥクルグズの「世界遊牧競技大会」にてコムズを演奏する馬上の人。30カラカルパクスタンカスピ海 黒海 トルコ地中海 中央アジアの楽器 奈良の正倉院に残されている螺ら鈿でん紫檀五弦琵琶は中央アジアからやってきた楽器である。これは、敦煌の石窟にある壁画に描かれた楽器とほとんど同じ形であり、唯一現存するものである。だが日本では、中央アジアで現在も使われているよく似た楽器についてはほとんど知られていない。 私が最初に中央アジアを訪れたのは、ソビエト連邦が解体した年であったから、今から25年以上も前のことである。それ以来、様々な楽器が手元に集まった。ギターを弾き、集めていた私は自然とこの地の弦楽器を集めるようになっていたのである。コレクションが増えていったのは、それぞれに個性的な顔があり、アルマトゥのコンサートでコブズを弾くアーティスト。ドンブラを演奏する筆者。カザフの擦弦楽器 写真1は、カザフの伝統的民族楽器コブズである(全長約65cm)。くりぬいた木の胴体にヤギの革を前面に張り、馬の毛の弦と弓で縦にもって弾く、チェロや胡弓のような擦弦楽器である。私が、カラカルパク(ウズベキスタンの少数民族)の語り手に見せてもらったコブズは二つそれらの顔に魅了されたせいでもあろうか。ギターと比べて一見シンプルでとっつきやすいが、巧みな奏法技術が要求されるため、なかなかうまく弾きこなせないでいるのが残念なところである。ここでは、それらの一部を紹介しながら、ユーラシア(テュルク)の音楽文化について簡単に述べてみたい。に分解でき、持ち運びしやすいように工夫がされていた。父祖から受け継いだ、そのコブズは使い込まれ、渋く落ち着いた音色であったのを思い出す。 コブズは、かつてはシャマンが巫術で用いた楽器だ。中央アジアでは、イスラーム化が進むと、いわゆる「シャマニズム」は次第に衰退していったが、それでも完全に消え去ったのではなかった。シャマンは宗教的職能者から専門的な叙事詩語りへと徐々にその姿を変えていったのである。中央アジアでは詩人や叙事詩の語り手のことをバクス/バフシと呼ぶが、これはかつてシャマンを指す言葉であった。最初のシャマンはコルクトという人物であったとの伝承があるが、コルクトはまた、コブズの考案者ともいわれる。中央アジアのシル川に絨毯を浮かべて、コブズを奏でながら死とは何かを自問した。コルクトが「主役」の英雄叙事詩『デデ・コルクトの書』では、コブズ(コプズ)を弾くコルクトの姿が描かれる。もっとも、19世紀になっても、シャマンがコブズを演奏しながら、巫術を行っていたことを伝える記録があり、シャマニズムと写真1 カザフの擦弦楽器コブズ。27年前にカザフスタン、アルマトゥで手に入れた。坂井弘紀 さかい ひろき / 和光大学Field+INSTRUMENTS中央アジアの弦楽器
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