フィールドプラス no.18
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◀写真1 2016年8月に三省堂から刊行された『ヒンディー語・日本語辞典』。写真2 タイプライターを使って作った教科書『ヒンディー語の基礎』(1983年)。写真3 世界に一台しかない特注のデーヴァナーガリー文字タイプライター。本誌16号掲載の「『アジア諸文字のタイプライター』展を巡って」(荒川慎太郎)もあわせてお読みください。(撮影:澤田英夫)写真4 ドットプリンターで作ったヒンディー語の研究用資料(1989年)。フォントも手作り。町田 実はその頃、京セラからレーザープリンターが出たんですよ。すごくきれいに印刷できて、ドットプリンターの比ではないわけです。今から考えれば解像度はまだ不十分なんだけれども、当時としてはもう画期的。今度はレーザープリンターを制御すれば同じことができるのだな、ということで、制御するプログラムを自分で作ってやり始めたの。それで作ったのが丹羽京子さんと共著のこの『エクスプレス ベンガル語』(白水社、1990年)です。切り貼りではなく、日本語部分も含めてレーザープリンターで出力しました。(写真6)――町田さんと田中先生の共著の『エクスプレス ヒンディー語』(白水社、1986年)もレーザープリンターですか?町田 あれは世界でも珍しいデーヴァナーガリー文字の写植でした。――常にインド系文字の出版技術の先頭に立っておられたんですね。町田 ずいぶんいろんな人の本を作るのを手伝いましたよ。20冊は超えるかな。私の恩師にラクシュミーダル・マーラヴィーヤさんという作家がいるんですが、インドで出版された彼のヒンディー語小説も、僕の研究室のレーザープリンターで出力した版下を使っています。――インド系文字に共通する仕組みはコンピューターとも相性が良かったようですね。町田 実際のテキスト入力は、エディターでローマ字と日本語で入力するだけです。ここは大きいデーヴァナーガリー文字でとか、ここは均等割付とか、決められたコマンドを入力するんです。有名な(ドナルド・)クヌース先生の作ったTeX(テフ)という多言語に対応した組版処理システムがありますけど、それを後から知って、「なんだ、同じじゃん」って思いました。大変おこがましいのだけどね。クヌース先生のほどではないけれど、印刷に必要なものはみんな作ってできるようにしてありました。27◆ドットプリンターからレーザープリンターへ町田 そう。その次にそろそろパソコンが研究費でも買えるような値段になってきたわけです。当時ドットプリンターというのがあってね。ピンをインクリボンに叩きつけてプリントする方式で、すごくうるさいんだけど、インド系文字の印刷にぴったりなの。インド系文字というのは子音字があって、その子音字は単独だと母音のaを含んでいます。例えばデーヴァナーガリー文字でカキクケコを書こうとすると、カは子音字だけを書けばよくて、キクケコの場合はそれぞれの母音記号を子音字「カ」の上下左右につけて書くんです。若干の例外はあるにしても、インド系文字は基本的にみんなそういう仕組みです。つまり、同じ部品を組み合わせることによって音節文字ができるんですね。こうした特徴をうまく使って、インド系文字共通の仕組みをなんとかコンピューターでできないだろうかと思ったんです。――それでドットプリンターを使ってやってみようと。町田 そう。当時はフォントもなかったので、一からデザインして作りました。1989年にドットプリンターを使って作ったのがこれです。中央にキーワードがあって、前後の文脈(コンテクスト)とともに出力した言語研究用の資料です。(写真4)――当時これができたのは町田さんの研究室だけですか?町田 おそらく世界で私の研究室だけでした。このドットプリンターを使って印刷したものを切り貼りして、版下を作ったのが、岡口典雄さんの『エクスプレス パンジャービー語』(白水社、1988年)です。ドットなのでグルムキー文字はあまりきれいではないけれど、ないよりはいいだろうということでね。(写真5) ――白水社のエクスプレスシリーズにはそんな裏話があったのですね。

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