人(約2400万人)よりも羊(約7000万頭)の数の方が多く、人口の大部分は南東部の海岸部に集まっており、農業や鉱物資源が豊富な資源輸出国である一方、工業やサービス業などの都市型の産業のイメージがあまりない。この国はいったいどんな特徴の国なのだろうか?シドニー郊外のバンクスタウン(2015年9月、写真はすべて筆者撮影)。シドニーの南西約20kmに位置するバンクスタウンは、アラビア語を話す人々の増加が著しい地区である。他にも、ヴェトナム系をはじめとする東南アジア系の移民も多い。ここでは、店で売られている物から道行く人々の顔つきまで、CBD(中心業務地区)とは対照的である。22メルボルン郊外ヤラバレーのワイナリー(2016年9月)。軽めのランチをとりながら自分好みのワインを探すワイナリーめぐりが人気を集めている。オーストラリアに通って 私のフィールドはオーストラリアである。かくも広いこの大陸の、具体的にどんなトピックスに関心があるのかと問われれば、「大陸全部」が答えである。現地に飛び込んで、研究対象の民族が暮らす集落に通って何年も参与観察を続けるような研究者や本誌のファンの読者からすれば 、大陸全部が対象などというのはいささか「ばかげた」ことに聞こえるかも知れない。しかし、冒頭に書いたように、オーストラリアは実態がよくわからない国の一つなのではないだろうか。そんな不思議な部分に私は惹かれている。 私がオーストラリアを本格的に調べ始めたのは2002年からである。その後今日まで、かれこれ15年かけてオーストラリアには約30回渡航し、調査地は全6州と1準州、および首都特別地域にまたがり、都市から農村部、海岸部から砂漠の奥地まであちこち出かけてきた。オーストラリアの滞在期間は、すべて合わせればほぼ3年になる。研究内容のシフト もともと私は都市地理学を専門としており、日本の都市を対象に、どのようなインパクトが加われば都市のビルの高層化が進むのかという点に興味をもって研究してきた。地理学者として得意な外国のフィールドをもちたいという憧れを大学院生のオーストラリアの特徴 何度もオーストラリアに通ううちに漠然と抱くようになったオーストラリアの特徴やイメージは、オーストラリアに残る「ヨーロッパ的な要素」ではないかと思う。 もともとのイギリス的な文化は、オーストラリア社会の随所に残存している。典型的なものは、やはり羊だろう。シドニーやメルボルンなどの大都市から車を小一時間走らせると、農村部で最初に目に入る土地利用は果樹や野菜の栽培と牧羊のための牧草地である。牧草地には酪農用の乳牛が飼われており、そこから車をさらに郊外に走らせると、必ずと言ってよいほどブドウ畑が広がっている。家族経営を中心とした小規模なワイナリーが点在するエリアを抜けると、その先は小麦の栽培地域と再び羊の放牧地である。ここまで来れば、パン、ジャム、乳製品、そしてワインの原料がすべて揃う。このように、都市から農村にかけて広が頃から持っていたので、研究機関に奉職できたことを機に、遅ればせながら30歳を過ぎた頃にオーストラリアに飛びこんだ。最初はシドニーやメルボルンなどの大都市を対象に、日本で研究していたようなビルの高層化を足がかりに、ウォーターフロント開発やコンドミニアムの建設ラッシュなどに興味をもっていくつか論文を書いていくうちに、絶えずやってくる大量の移民と、結果として出来上がる多文化社会に徐々に興味がシフトしていった。折しも、高校地理の教科書(地理A)でオーストラリアの項目を執筆する機会を得たこともあって、都市だけではない、オーストラリア全体について詳しくなりたいという気持ちが強くなった。長くなるので詳細は割愛するが、オーストラリアに渡航した際には、主な用務地以外の「寄り道」を行き帰りに盛り込むように心がけてきた。都市部と農村部、比較的雨が多い豊かな土地と過酷な乾燥地、現代オーストラリアの都市社会と伝統的な農村社会といったコントラストがたいへん面白い。次回はどこに行こうかなと考えながら、毎回帰国の途につくのが「日課」になっている。オーストラリアシドニーキャンベラメルボルンフィールドノート 堤 純 つつみ じゅん / 筑波大学オーストラリアの多文化社会の成熟と食の多様化
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