フィールドプラス no.18
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調査に使用したドローン。ドローンで撮影した空中写真から作成した画像。右は地表面の凹凸を示している。トウジンビエとモロコシの混植。赤く太い穂がモロコシ。ドローンで撮影した畑の作物。混作に対する認識 初めに、農家の方が、自分が実施している混作に対してどのような認識を持っているのかを把握する試みを行った。それは、農家の方に自分が畑に植えている作物を、作物種の組み合わせに留意して絵で描いてもらい、その内容について調査者が質問するという方法である。住民参加型開発のツールとしても利用される手法であるが、ここではそれを“ファームスケッチ” とよぶ。ファームスケッチの利点は、彼らが認識する畑空間の大まかな位置情報と栽培作物種の組み合わせとを結び付けた認識を得られる点にある。すなわち、畑のどの場所で、どのような作物を植えたという情報を把握することができ、後述するGPS受信機によるデータとある程度の比較をすることが可能となる。画用紙と色ペンを使って絵を描く作業は、最初はためらう人も見られたが、彼らの多くははそうした作業を楽しんでいた。なによりも、彼らが自分の畑をどのように認識しているのかを視角的に明らかにできる点が興味深い。混作の実践 次に、農家の混作実践を間接的に把握するため、畑で実際に栽培されている作物種とその分布を調べた。その際、試験的に二種類の方法を試してみた。一つは、GPS受信機を用い、作物ごとに栽培場所を記録していく方法である。これには、作物のれて勝手に生えてきたCという作物が育っている場合や、発芽がうまくいかずにBという作物が枯れてしまっていることなどもある。 さらに深刻であるのは、Y氏が意図的に単純な説明や質問者が望んでいる答えをする場合である。このような時には、農家が実際に行っている試行錯誤が質問者には把握され得ないという問題が生じる。他方で、農家が意図的に説明方法を変えているような事例では、彼らが調査者に語る認識と実際の行動(実践)との間の齟齬を調査者が把握することができれば、農家の試行錯誤を明らかにする手掛かりになるかもしれない。生えている場所を点のデータとして記録する方法と、GPS受信機を持って歩いた場所を線でつなぎ、多角形(ポリゴン)で示すという、さらに二種類の方法がある。前者の場合、極端に言えば一本一本の作物を記録していくことも可能であるが、数ヘクタールの畑を調べるためには膨大な時間を要するので現実的ではない。そのため、畑を観察して均一である栽培区画を多角形で面的に記録していく方法が一般的である。その場合、区画の面積を計算することも可能である。 もう一つの方法は、衛星画像や空中写真を用いて、作物の分布を把握するというものである。上述のGPS受信機を使った方法においても、実際には様々な困難がともなう。例えば、雑多に作物が生える畑の均一な区画を抽出する過程には主観が入り、その境界を見つけるのが難しい。また、面積が大きいと、GPS受信機をもって歩き回る距離が長くなり、時間を要する。衛星画像や空中写真などを用いれば、それらの点を克服し、作物の栽培状況を把握できる。しかし、衛星画像の場合、畑のなかの作物を判別するためには、解像度の高い画像が必要となる。そのような画像は高価であり、またちょうどよい時期に撮影された画像を入手することが適わない場合もある。とはいえ近年では、ドローンを用い農家の試行錯誤の理解に向けて ある農家に対して、ファームスケッチとGPS受信機による調査を実施すると、一致すると考えられる両者の結果には微妙な齟齬が認められた。そのなかで興味深かったのは、トウジンビエとモロコシの混作である。ファームスケッチによる調査では、「トウジンビエは乾燥している砂質土壌を好む」と農家の方々は説明し、他方、モロコシは「(相対的に)湿潤な場所で粘土質土壌を好む」といい、両者は別々の場所に描かれる。このように、真逆な性格として認識されている作物が、畑をみると一緒に植えられている場所が数世帯で認められた。しかも、畝のて空中写真を撮影することにより、適切な時期の空中写真を入手することが比較的手軽にできるようになった。さらに、地上測量を加えることで地表面の細かな凹凸を地図化し、微地形と栽培作物との関係を考えることが可能である。上と下で植え分けるという方法ではなく、種を混ぜて、同じ穴のなかに播種をするという方法がとられていた。なぜ、そのような栽培をしているのかを再び尋ねると、「大雨が降り、地面が水で覆われるような状況になるとモロコシが生き残り、逆に雨が少なく干ばつ傾向になるとトウジンビエが生き残るから」と説明された。これは、いわば住民が不確実な降水環境で安定的な収穫を得るために考え出した知恵である。 地域の環境を知り尽くしている農家が実施する様々な試行錯誤には、将来的なイノベーションにつながる多くの可能性が秘められている。このような試行錯誤を研究者が把握し、農家と一緒に研究を実施していくことは、新しい農業を模索する上で重要な意味をもつ。今回実施したフィールドワークでは、複数の異なる手法でアプローチすることによって、彼らの考えや様々な試行錯誤を多角的に把握できる可能性が垣間見られた。21

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