フィールドプラス no.18
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一筆の畑に多種の作物を栽培する農法は、混作とよばれる。一見、雑然と作物を植えているように感じるが、農家の方は様々な意図をもって作物を配置している。調査者は農家の試行錯誤をどのように理解できるだろうか?トウジンビエ、モロコシ、ササゲの混作。ナミビア北部の農村景観(ドローンで撮影)。20ファームスケッチ。ファームスケッチを描く女性。ナミビア農村の畑 サブサハラアフリカの農村を訪れると、畑の“雑然さ”に目を奪われる。私が調査をしているナミビア共和国北部の農村では、トウジンビエやモロコシなどのイネ科作物とともに、ササゲやバンバラマメなどマメ科の作物、多品種のスイカやカボチャ、さらに複数の樹木やその稚樹、食用となる野草などが、一つの畑のなかにごちゃ混ぜに生育している。このような農法は混作とよばれ、一種類の作物を一つの区画に作付けする単作と区別される。ただし、混作と一言でいっても、実に多様な作付方法が含まれる。組み合わせる作物の種類や品種、配置方法、作付時期、各作物の面積比、施肥方法は世帯や個人によっても異なっている。それは、生計戦略や在来知、経験の差異から生じるものである。さらに、混作には農業生産の安定化や病虫害に対するリスク軽減、土地の効率的な利用、生物多様性保全など、多様な機能があることが指摘されている。 ナミビア北部の場合、混作には、不確実な降雨に対する適応戦略という側面があるかもしれない。この地域は、平均的な年間降水量が400~500mm程度の半乾燥地に位置しているが、年によっては農耕限界とい農家の試行錯誤を把握する方法 農家の方々がどのような考えで混作を行っているのかを把握するため、混作に対する認識と実践という二側面の調査を同時に実施する方法を考えてみた。例えば、ある人(Y氏)が畑の一角にAとBという二つの作物の種を播いたとしよう。その後、他の人がその事実を把握するためには、ビデオなどの記録が残っていない限り、Y氏に聞くか、畑に生えている作物を観察してその事実を推察するという方法となる。インタビューをすると、そのことを答えてくれる場合が多いが、様々な原因により、事実とは異なる説明をY氏がすることがある。例えば、単純にBという作物を播いた事実を忘れている場合や、面倒なのでどちらか一方だけを答えることなどが多々ある。また、実際に畑をみると、種がこぼわれる250mmを下回る干ばつが発生し、また逆に、平均の二倍に達する大雨洪水被害が発生する年もある。こうしたなかで、農家の方々は意図的、あるいは非意図的に混作を行っているが、私のような外部者は、雑然として見える混作や彼らの試行錯誤をどのように理解することができるのだろうか?ナミビア共和国調査地ウイントフックフィールドノート 藤岡悠一郎 ふじおか ゆういちろう / 九州大学、AA研共同研究員混作をめぐる農家の試行錯誤

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