FIELDPLUS 2017 07 no.1813 今号のテーマは「たたかう」です。研究者はときにフィールドでさまざまなたたかいに直面します。ひとことで「たたかう」と言っても、武器と暴力を用いた文字通りのたたかいもあれば、社会の「壁」や自らの内面にやどる「敵」に対する非暴力的なたたかいもあります。現代的、社会的な問題を研究対象とする場合、研究を進めていくなかでその問題をめぐる現地の人々のたたかいに身近に接することが多いでしょう。あるいは、たたかいとは無縁のはずの調査を進めるなかで、否応なしにたたかいに巻き込まれることもあるでしょう。専門と地域も異なる3人の研究者が、「たたかう」をテーマに、フィールドでの調査研究の一端をお伝えします。 民族音楽学を専門とする増野亜子さんは、インドネシアを中心とした東南アジアの芸能を調査研究するなかで出会った伝統芸能のひとつ、プンチャック・シラットを紹介します。たたかいのために身体を修練する技法=武術であるとともに、音楽を伴って芸能として上演されることもあるプンチャック・シラットの事例を手掛かりに、武術と舞踊がもつ思いがけない共通性を考察します。 イスラエル・パレスチナの文化研究に取り組む細田和江さんは、ユダヤ人とアラブ人が暮らす多文化・多言語社会であるイスラエルにおいて、言語をめぐり繰り広げられてきている葛藤と妥協を取り上げます。なかでも、ヘブライ語で小説を執筆するアラブ人作家の存在に着目し、言葉を武器として、宗教や民族の枠を乗り越えようとたたかうイスラエルの人々の姿を紹介します。 イランを中心とするペルシア語文化圏の歴史の専門家である近藤信彰さんは、イランでのさまざまなたたかいを振り返ります。テヘラン滞在中に体験したイラン=イラク戦争という文字通りのたたかいのほかに、ヴィザや資料閲覧・複写許可を取るための役所の人々とのたたかいまで、さまざまなたたかいを潜りぬけてきたという記憶が、現在も調査研究を進める覚悟を支えていると言います。〈太田信宏 記〉イラン近世史・近代史
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