フィールドプラス no.18
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123456789 Bの発話 語の持続時間 (秒) 0.44 0.41 0.43 0.30 0.43 隣接する語の 間の間隔(秒) 的には破格となる。ところが(1)では最初の音節がtshe:と2拍に引き伸ばされ、これに1拍のpoが続く、つまりグイ語らしいRt-Afという連続体へと変換されている。(2)ではTsheposiがtshe:-po-si、すなわちRt-Af-Afへと変換され、やはり破格が解消されてグイ語らしい音韻構造となっている。要するに、ここで行われているIDSには、これらの変換によって借用語の音韻的破格を避けた形式が使われていると解釈できる。そして、上記の(1)から(5)は、Rt-AfとRt-Af-Afが繰り返されていると考えることができる。 (4)の直後、母親Mもまた、Tに対してRt-Af-Afと分析されるサオ・カムtshe:-po-siを1回発している(図1の5行目)。ここでMは、TにBの発語に気づいてほしかったようにみえる。この時、TはBとM、いずれのサオ・カムにも注意を向けていなかった。これは、Tが自分の手を吸っていたため、あるいは、Tの正面の方向に座って、その場にいた人々に向かって物語を話していた盲目の祖父の声に引き付けられていたためだと考えられる。サオ・カムによる遊び その直後、Bはサオ・カムを変化させ、「遊び」始めた(図1)。(6)の終結部分で、Bはsiをnye: に置き換え、この部分を強調している。ここでのnye: は、ツワナ語で「少ない」や「小さい」という意味を持つ形容詞nnyeに由来すると考えられる。nye:は、語根的音韻単位によって構成され、(6)の音韻構成は、Rt-Af-Rtに分解できる。言い行1011図1 サオ・カムの事例1。[ ]で囲まれた隣接する発話はそれらが重複して発せられたこと、大文字はその部分が相対的に強く発音されたこと、(( )) はそのつど必要な注記を示す。T(16週齢)身体Tは両手を吸いながらMの膝に座っている.Tの顔はMの左側を向いている.Tの両手が口から離れる.Tは両手をすりあわせる((再び両手を吸おうとしているようである.))換えると、(6)はそれまでのRt-AfとRt-Af-Afの繰り返しのパターンを破っている。さらに(6)と(7)の間には、(1)から(6)を特徴付けていた「基準フレーズ」における休止よりも長い休止(1.17秒)が生じている。これに続く(7)と(8)の間の休止は、「基準フレーズ」における休止よりも短い(0.13秒)ものだった。また(8)と(9)との間の休止は、「基準フレーズ」における休止よりも長い(0.79秒)ものとなっている。(9)では、Rt-AfとRt-Af-Afの繰り返しのパターンにさらに変化が加えられている。すなわち、Rt-Af-Afパターン(tshe:-po-si)にRt-Af-Rtパターン(tshe:-po-nye:)が続いている。さらに、(10)および(11)はRt-Afパターン(tshe:-po)の繰り返しであり、両者とも「基準フレーズ」における休止よりも長い休止の後で生み出された。しかしながら、Tはここでもやはり顔をBとは反対側に向けており、その発語に注意を払っていなかった。ここに至ってBは、サオ・カムを発することをやめた。対話としてのサオ・カム 上述の分析から示唆されるように、養育B(Mの姉)身体BはMの横にMと向き合って座る.Bは彼女に背を向けているTの顔をのぞき込もうとする.Bは頭を横に振る.Bは頭を横に振る.Bは頭を横に振る.Bは頭を横に振る.言語Bは頭を横に振る.((Bの頭が画面の外に出る.))(6)tshe:ponye:4410)zH(数波周0図2 サオ・カムの事例2。tshe:posi tshe:pho tshe:posi 言語(1)tshe:po(2)tshe:posi(3)tshe:pho(4)[tshe:posi](5)tshe:po(7) tshe:po(8) tshe:posi(9)tshe:ponye:(10)TSHE:PO(11)TSHE:POSPECTROGRAPHIC ANALYSIS (1) (2) (3) (4) (5) (6) tshe:po tshe:ponye: tshe:po 0.61 0.53 0.52 0.47 0.59 0.46 者はサオ・カムを行う際、乳児が応答することを期待している。養育者はこれによって、生き生きとした感情表出を伴う交流に乳児を引き込むことをねらっている。この点で、サオ・カムは乳児との対話を志向するものである。上記の事例では、(1)から(5)の規則的なサオ・カムは期待した乳児の反応を導くことができなかった。これは(6)から(11)という、サオ・カムの変奏を導いた。このようにサオ・カムの実践では、しばしばある種の構音の、反復と変奏のパターンがあらわれる。これらは、サオ・カムの実践に特徴的なリズムを生み出す。養育者は、これらの特徴を効果的に利用して、相互行為を愉快なものにしようとしている。こうしたやりとりは、次第に複雑になっていく養育者と乳児の相互行為において、相互理解を達成するための基盤となっていると考えられる。また多くの言語ジャンルと同様に、IDSも言語共同体ごとにその歴史や慣習を反映したさまざまな形式をとるであろう。したがって、IDSを音楽的対話とみなすアプローチによる分析は、IDSの普遍性と文化的特異性の双方を明らかにすることにつながるだろう。M(Tの母親)身体Mは自分の小屋の敷地内に座っている.Mは膝の上でTに座位を取らせている.Mは少し両脚を揺らしている.MはTの顔を見る.Mは,近くに座っている義理の父をちらっと見る.Mは再びTの顔を見る.MはTを見つめる.時間(秒)(7) (8) tshe:po tshe:posi 0.37 0.46 (9) tshe:ponye: 0.80 1.17 0.13 0.79 言語[tshe:posi]15.00(10) TSHE:PO 0.44 (11)TSHE:PO0.44 1.26 1.32 11

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