フィールドプラス no.18
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母母母母900000ブッシュでのキャンプ(夕方)。う景色が見えてくる。私たちの社会では、親族の範囲は狭く、配偶者候補はその狭いネットワークの外からさがしてくるものだ。しかし小規模な集団で暮らしている彼らにとって、人はみな潜在的につながりがあり、そのつながりのある人たちの中からキョウダイを避けてパートナーをさがす。彼らのキョウダイの範囲は私たちのそれよりずっと広い。そして、全く関係がさかのぼれない人と出会ったら、その人は「非キョウダイ」の親族カテゴリーへと分類される。 あなたの異性のキョウダイたちは、あなたの性的パートナーにしてはいけない人たちである。そして、次の世代であるその子どもたちは、「親どうしが結婚することは絶対にない」者どうしとして、配偶者候補に分類されているのだ。交叉イトコとはこのような関係のことなのである。ではもう一世代下ったらどうだろうか。親どうしには婚姻の可能性がある交叉イトコの子どもどうしの関係は――そう、実は、彼らは元からキョウダイと分類されているのだ! この体系では、自己と婚姻可能な親族の子は体系上も自己の子であり、その子と自己の子はキョウダイと分類されパートナーにはなれないと位置づけられている。 では同性のキョウダイの関係、特に長幼の位置によって異なる分類をすることはどのように説明できるのだろうか。あなたが結婚したとする。あなたの配偶者には同性のキョウダイたちがいるだろう。結婚する前は、その人たちもあなたの配偶者候補だったはずだ(つまり、キョウダイとは分類されていないはずだ)。しかし、結婚がなされた後、配偶者の同性の年上キョウダイは強い禁忌対象になるが、同性年下キョウダイは、あなたの配偶者候補のままなのである。言い換えると、同性のキョウダイであるような人たちと結婚する場合は、年上側と先に関係をむすばなければならないというルールがグイ・ガナの社会には存在する。同じことを子の側から見ると、母の姉は、母の兄弟たちと同様に「オジ・オバ」カテゴリーに分類されているが、母の妹は、母の配偶者であるあなたの父0のパートナーになる可能性がある人なので、最初からあなたの「(小さい)母」と分類されている。一方、そうはならない母の姉は、あなたの「母」ではなく「オバ」とラベル付けされているのだ。 彼らの親族名称体系は、世界のどの言語と比べても珍しい分類を有するというだけでなく、近隣の、言語の系統的には近いと図1 直系型の親族分類。図3 世代型の親族分類。母の姉母の姉○:女性、△:男性、□:両性。赤:1世代上の親族で、親および親と同じカテゴリーに分類されるもの。青:1世代上の親族で、親と別カテゴリーに分類されるもの(オジ・オバ)。白:自己と同世代で、自己およびキョウダイと同じカテゴリーに分類されるもの。緑:自己と同世代で、キョウダイと別カテゴリーに分類されるもの(イトコ)。母の妹母の兄弟自己母の妹母の兄弟自己されるグループの中でも少数派である。この点で、前の記事で扱ったカラハリ狩猟採集民共通の意味拡張と考えられる食動作語彙とは事情が異なっている。そして、この体系を共有しない同系の言語集団とは、この婚姻規則もまた共有しない。では、この長幼の順序に重きをおくようなグイ・ガナの特徴は、いったいどこからやってきたのか。外部との接触が原因なのか、それとも、もともとこのグループにあったものがここにだけ残ったのだろうか。この問題についてはまた次の機会に譲りたい。図2 二岐融合(bifurcate merging)型の親族分類。図4 グイ・ガナ型の親族分類。母の姉母の姉母の妹母の兄弟自己母の妹母の兄弟自己トビウサギ猟用の鈎竿を作る男性。

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