FIELD PLUS No.17
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30FIELDPLUS 2017 01 no.17インドネシアで鉄道趣味を楽しむ 「鉄オタ」という存在が現在のように社会的に認知されるようになる以前、鉄道趣味は隠れて楽しむものだった。「乗り鉄」が趣味だと言えば、「電車に乗っているだけで何が楽しいの?」と奇人扱いされ、「時刻表が愛読書」と言えば、「なんでネットの経路検索じゃだめなの?」と変人扱いされるからである。 その点、インドネシアで鉄道趣味を楽しむのは気楽である。インドネシアで鉄道が開業したのは日本より5年も早い1867年だが、現在も営業を行っている路線の総延長は約6000キロと日本の4分の1にも満たないうえ、通勤・通学で鉄道を利用する人はジャカルタ首都圏の一部に限定されているので、そもそも電車に乗ることが人々の生活に溶け込んでいない。それゆえ、鉄オタの人口がそもそも少ないし、ほとんどの人は鉄道趣味のことなど意に介さないからである。日本式の時刻表がないうえローカル線は頻繁に運行休止したりするので、乗り鉄をするうえでは困難も多いが、そのかわり、自分なりに駅の発着時刻を調べて自分で時刻表を作る楽しさがある。日本での「撮り鉄」は一部の人間のマナーの悪さから嫌われ者と化しているが、彼の地では、物珍しさからか、写真を撮っていると運転士さんが手を振ってくれたりする。 こんなふうに鉄道趣味をのんびり楽しむことができたインドネシアに、いま日本の鉄オタが続々と押し寄せている。彼らのお目当ては、ジャカルタの通勤路線を走っている日本製の中古電車である。近年、ミャンマー、フィリピン、マレーシアなどに多くの日本製中古車両が導入されて、日本の鉄オタから東南アジアの国々に熱い視線が注がれるようになったが、なかでも注目されているのが、これまでに1000両あまりの日本製中古電車が導入されているインドネシアである。私たちが10代、20代の頃、通勤・通学で毎日のように利用していた思い出の電車が、スクラップになることを免れて、第2の人生を熱帯の国でがんばっている。ジャカルタの通勤路線は、日本の鉄オタにとってノスタルジーを掻き立てられる胸アツな鉄道なのである。日本の通勤車両が活躍 数年前、インドネシアの「通勤地獄」に関するニュースが日本のテレビやネットで話題になった。朝のラッシュアワーに、インドネシアの首都ジャカルタの郊外から都心に向かう通勤電車は、車内に入りきらない乗客が窓やドアからはみ出しているだけでなく、屋根の上にも鈴なりになっているといった映像が紹介されたのである。 もちろんインドネシアの通勤客は好んで屋根の上に乗っていたわけではない。経済の成長にともなう鉄道利用者の急増に対応できるだけの車両数がなかったため、インドネシア国鉄(PT KAI)は列車の本数を増やすことができなかったのである。また、熱帯の国を走るにもかかわらず当時の通勤車両には冷房設備がなかったため、満員の車内の暑さを逃れようと屋根に上がる乗客も後を絶たなかった。 増加を続ける輸送需要に応えるたいまジャカルタでは赤と黄の派手な色に塗られた通勤電車が走っている。よく見ると、かつて東京近辺を走っていた電車と同じ顔をしている。そう、いまやジャカルタは日本の中古電車天国なのだ。Field+TRAINジャカルタで活躍する日本の中古通勤電車を追って川村晃一 かわむら こういち / 日本貿易振興機構アジア経済研究所コタ駅に停車中の元東京メトロ東西線用の5000系。隣に止まっているのは、ドイツの支援を受けて国産された電車だが、故障が多いという。コタ駅に進入する元東京メトロ千代田線用の6000系。赤と黄の塗り分けがジャカルタ首都圏を走る通勤電車の標準色である。ジャカルタ中心部では鉄道路線の周囲が低所得者地域やスラム街である箇所もいまだ多い。線路脇は生活の場であったり、ゴミ捨て場であったりするが、最近は州政府による不法占拠住宅の強制撤去も進んでいる。元JR東日本205系の車内。設備はほぼそのままであるが、この車両には天井にモニターが2台新たに設置されている。右のドアのところに立っているのは警備員。ジャカルタ中心部のターミナル駅マンガライ駅で。ホームの高さが低いままのため、階段を設置して乗客の乗り降りに対応している。両ホームとも元JR東日本の205系が停車中だが、左側の車両は南武線を走っていたときの塗装のままである。マンガライ駅に停車中のJR東日本205系。ホーム中央には最近設置されたベンチが見える。都心からの帰宅客が並ぶパルメラ駅に到着したジャカルタ南西部近郊メジャ行き通勤電車(元JR東日本203系)。日本製中古電車 の車内に貼られた禁止事項ステ ッカーにインドネシアらしさが出ている。右側一番下には「ドリアンなど、においの強い物の持ち込み禁止」の表記が。インドネシアジャカルタ

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