FIELD PLUS No.17
24/36

22FIELDPLUS 2017 01 no.172016年7月1日に、バングラデシュの首都ダッカで起きたテロ事件では、日本人7名を含む多数の犠牲者を出しました。事件の後、バングラデシュでは、人文学系の学問の軽視がテロの温床につながったという議論が起き、大学での教育が見直されました。フィールドノート 人文学の知でテロを防ぐバングラデシュ・ダッカのテロ事件と大学での教育への取り組み外川昌彦 とがわ まさひこ / AA研ダッカの高級住宅街グルシャン地区の、事件のあったレストランに向かう路地。マンションが立ち並ぶ路地の奥が入り口のゲートだが、事件の後、立ち入りは禁止されている。(2016年8月8日、筆者撮影)飛行機の窓から撮影した、グルシャン地区。高層マンションやオフィスの建物が立ち並ぶ街並みの、水辺の緑に囲まれた中に、レストラン Holey Artisan Bakeryがある。(2016年8月8日、筆者撮影)路地の入口に掲げられた追悼のバナー。ダッカ日本人学校の生徒たちは折り鶴を供えた。(2016年8月8日、筆者撮影)グルシャン地区のレストラン Holey Artisan Bakeryのゲートにて。襲撃で割れた隣接の建物の窓ガラスが痛々しい。(2016年8月8日、筆者撮影)事件が起きたレストランが建つ場所きました。今回の事件は、図らずもその取り組みが、無駄ではなかったことを示してくれました。」 筆者は、たまたま事件のひと月後に、まだ緊張の冷めやらぬダッカの街を訪れる機会を得た。そこで本稿では、その時のフィールド・ノートの記録から、テロ事件に直面したバングラデシュの人々が受けた衝撃と、それに立ち向かおうとする様々な取り組みの、その一端を紹介してみたい。バングラデシュの若者とテロ事件 ダッカの人質テロ事件は、2016年7月1日の夜、市内の高級住宅街グルシャン地区のレストラン Holey Artisan Bakeryを武装集団が襲撃した事件である。 犯人は、「アッラーフ・アクバル(アッラーは偉大なり)」と叫ぶと、爆弾を投げ、店内の客を人質にとり、警官隊と銃撃戦になった。この事件で20名が犠牲となり、現地の開発支援にたずさわる日本人が7名含まれていたことで、日本でも大きな衝撃をもって報じられた。 外国人が無差別テロの標的にされるという、これまでのバングラデシュでは考えられないような事件に、国際的なテロ組織のISIL、いわゆる「イスラーム国」との関わりなども含めて、内外のメディアは大きく取り上げた。その中でも、バングテロ事件と人文学系の教育科目 「バングラデシュの私立大学の多くは、文化人類学や民俗学の科目がほとんど教えられていません。それだけでなく、母国の歴史や文化を学ぶ人文学系の学問が、おざなりにされています。そのことが、今回のテロ事件の背景にはあると、私たちは考えているのです。」 これは、2016年7月1日に、バングラデシュの首都ダッカで起きた人質テロ事件からひと月後に、知り合いの文化人類学者の研究室を訪れた時に聞いた話である。 テロ事件と人文学系の教育科目という、ほとんど関わりのなさそうな問題が、しかし、連日、バングラデシュではメディアを賑わせる話題となり、政府が大学に、もっと人文学系の科目を増やすよう要請する事態となっていた。 この知り合いの先生は、すぐ隣のライバル関係にあるノース・サウス大学が、今回、事件で複数のテロ事件の関係者を出したことに触れ、自分たちの大学には、そんな学生は一人もいませんと胸を張ると、こう話してくれた。 「今の都会の学生は、農村の伝統文化や土にまみれた生活に触れた経験がありません。私たちは、文化人類学や民俗学の授業を通して、自国の歴史や文化に触れる機会を作ってダッカインドバングラデシュミャンマー

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る