FIELD PLUS No.17
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13FIELDPLUS 2017 01 no.17文化人類学 今号は「あるく」をテーマとして、3名の研究者に自らの調査を振り返っていただきました。「あるく」ことへのアプローチは専門分野を反映して、それぞれ異なっています。 自然地理学者の奈良間千之さんは、氷河を求めて中央アジア天山山脈・ヒマラヤの各地を踏破してきました。様々なタイプの氷河と出会う中、奈良間さんが注目するのは氷河湖が決壊して起こる洪水でした。クルグズスタン、北西インド、ブータンなど各地の調査の比較から、氷河湖の成り立ちの違いを明らかにした上で、現地における社会の防災力向上のために、ワークショップを開催して成果を還元する事例をご紹介いただきます。 記述言語学を専門とする品川大輔さんは、アフリカのバントゥ諸語を研究しています。東アフリカのフィールドで見かける姿勢よく闊歩する人々から「あるく」ことについて思考をめぐらせる中で、よく目にする「頭に物を載せて運ぶ」所作に行き当たりました。言語学的な分析からこの概念を一語で表現する動詞が、バントゥ諸語圏に広く分布していることがわかります。品川さんはさらに思考を展開させ、語彙と現実の営みとの関係性を捉えるための言語ドキュメンテーションの重要性を説かれています。 文化人類学を専門とする土井清美さんは、あるくこと・あるく人を調査の対象とし、フィールドである「道」を自らも歩いています。スペインのサンティアゴへの巡礼路を進む徒歩巡礼者たちを調査するためには、彼らと同道し生活を共にするのが不可欠だと判明します。試行錯誤を経てたどり着いたフィールドワークの意味は、土井さんの言葉を借りれば、「場所と身体の関わり方」を考えることになるでしょうか。 調査者自身があるく、あるくことにまつわる所作を考える、あるく人々を調査する、と「あるく」に対する迫り方の違いはあきらかです。3本のエッセイに共通するのは、自らのフィールドワークがどのような役割を果たすのかという点でした。フィールドにおいて歩く・移動するのは言うまでもないことですが、ときには足を止めて、自分たちの調査・研究について改めて考えながら、頭の中を「あるく」ことも必要なのかもしれません。 〈野田 仁 記〉

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