FIELD PLUS No.16
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7FIELDPLUS 2016 07 no.16を持つ国であるが、全40行の内イスラーム銀行はわずか3行であり、政府や中央銀行によるイスラーム金融への対応についても必ずしも積極的ではない。1980年代に高配当を謳って多くの資金を集めていたイスラーム投資会社が相次いで破綻したことや、政府と対立関係にあったイスラーム主義組織が同国でのイスラーム銀行の設立に関わっていたことも、こうした政府の対応の背景にあると考えられる。このため、エジプトでは、イスラーム銀行は通常の銀行と同様の方針に基づき規制が行われている。たとえば、イスラーム金融制度を整備した国において、その導入が一般的となりつつあるイスラーム金融に関する会計基準はエジプトでは認められず、通常の銀行と同様の会計処理が要求される。 その一方で、私がしばしば足を運ぶファイサル・イスラーム銀行(写真3、4)での調査からは、近年、イスラーム銀行の存在意義について中央銀行の理解は進んでいるとの印象を受けた。その背景として、同国においてイスラーム金融に対するニーズが高まっていることが挙げられる。たとえば、イスラーム銀行が保有する預金高や資産額は年率約10%の伸びを示している。また、同国におけるイスラーム銀行の顧客は約250万人に達するという推計もあり、この推計に基づけば、銀行部門の全顧客の約2割を占めていることになる。イスラーム銀行の支店数も増加しており、通常の銀行もイスラーム金融商品を提供し始めている。9千万人超といわれるエジプトの人口規模を考えた場合、イスラーム金融の潜在顧客は多く、通常の銀行による対応の変化は、こうした状況を踏まえた動きと考えられる。好調な業績を維持するヨルダンのイスラーム銀行 エジプト同様、ヨルダンもまたイスラーム金融において長い歴史を持つ。ただし、近年まで、ヨルダンにはイスラーム銀行が2行しかなかった。しかし、2010年に国内3番目のイスラーム銀行が設立され、2011年には、イスラーム銀行のなかでも最大の資産規模を誇るサウジアラビアのアッ・ラージュヒー銀行がヨルダンに進出しており、イスラーム銀行の支店も増加している(写真5)。 ヨルダンは、政治的・社会的にも周辺諸国に比べて安定していることから、いわゆる「アラブの春」以降の周辺諸国の情勢悪化を受け、多くの人びとが国内に難民として流入した。このことは、国内に混乱をもたらした一方で、資金流入の拡大という点で経済にとってプラスの効果があり、事実、民間消費の拡大を背景に、国内の民間資金需要も堅調な伸びを示している。こうしたなか、イスラーム銀行も顧客の資金需要に積極的に応えており、経営状況も良好であり、引き続き市場の成長が見込まれる。なぜイスラーム金融は利用されるのか? イスラーム金融は、時代を経るごとに発展と変遷をとげ今に至っている。イスラーム金融をめぐる対応は、金融制度の違いや政治的な思惑から、各国により差があり、イスラーム金融の発展に後ろ向きな国も存在する。ただし、このことは必ずしもその国の人びとがイスラーム金融の利用に対して否定的であることを意味していない。 では、人びとはなぜイスラーム金融を利用するのか。この問いに答えることは容易ではない。まずは、イスラーム教で禁じられている利子に依らずに金融活動が行われている、という宗教的な理由が考えられるが、それだけなのか。むしろ、イスラーム金融を実践する金融機関がイスラームの教えと経済的な利益とを同時に追求しようとする姿勢そのものが利用者の共感を呼んでいるとも考えられるのではないか。この点は、さらに検証の余地があると思われるが、こうした課題を含め、イスラーム金融がどのような特色を持ち、また現在の資本主義経済に対してどういった問題を提起できるのか。一経済学徒としてさらに追究していきたい。写真3 1977年設立のファイサル・イスラーム銀行エジプト(カイロ)。写真4 ファイサル・イスラーム銀行エジプトが発行した銀行手数料に関するパンフレット。預金者が受け取る配当金は、銀行の貸出利益に応じて決定されると明記されている。写真5 ヨルダンに進出したサウジアラビアのアッ・ラージュヒー銀行(リヤド)。写真2 イスラーム銀行への転換を目指すサウジアラビアのナショナル・コマーシャル銀行(ジェッダ)。

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