34FIELDPLUS 2016 07 no.16金子守恵かねこ もりえ京都大学、AA研共同研究員エンセーテ紙とエンセーテの葉をつかったデザインカード。型紙どおりにエンセーテ紙を切る学生たち。パルプ(繊維をたたいたもの)に偏りがでないように紙を漉いている。リーダーがメンバーに作業の留意点について指示している様子。この地域の人々は、熱効率と熱分布などに留意して、アルミや鉄製の調理具よりも土器を利用する場合が多い。エンセーテの偽茎からデンプンをかきだしている様子。地域に暮らす人びとだけが、根茎部と偽茎からかきだされるデンプンを主食として栽培してきた。だが、デンプンをかきだしたあとの繊維は、これまでほとんど利用されてはこなかった。2000年代に入り農業政策の変化も影響して、村の農民たちは換金作物を重点的に栽培するようになり、エンセーテの数が減りはじめた。 こうした状況をうけて、この村で研究を続けてきた地域研究者らが中心になり、2010年からテキスタイルの専門家を招いて、村の子どもたちに手漉きの紙つくりの技術を紹介しはじめた。私は、この地域で利用されている土器製作の習得過程について調査研究をしていたこともあり、自らが紙つくりの技術を紹介する過程に関与しながら、それとあわせてあらたな技術の導入と受容の過程についての調査もおこなっている。 現在は村の学生約30人が紙つくりに従事している。3つのグループにわかれてそれぞれのリーダーのもとで作業をすすめ、博物館へ納品している。2015年までにワークショップを5回程度開催してきたなかで、学生たちとやりとりしながら、使用する道具や製作手順などを改変してきた。手漉きの紙やその加工品という、彼らが日常生活で使用しないものをつくりだす作業では、できあがりを想像することが難しく、最初から一定の品質のものを製作することは困難だった。しかし、回数をかさねていくにつれて、彼らが、非常に手先が器用で、こまやかな点にも留意しながら製作活動に従事できることがわかってきた。 紙をつくるにはエンセーテの繊維が必要になる。学生たちは、エンセーテの加工作業にも従事するようになった。繊維を取り出す過程を通じて、エンセーテの生育年数と繊維の太さに関連があること、品種によって繊維の量や質が異なっていることなど、品種の特性や個体差をしだいに理解するようになっていった。以前は家の仕事の手伝いをする過程で得られてきた知識が、現在は私たちのような外部者との関わりのなかで「発見」されるものになりつつある。村の学生たちも外部者である私たちも、エンセーテ紙の製作を契機にして、エンセーテという植物の素材としての特性や魅力をより深く理解することが可能になった。こうしてあらたな「もの」が誕生し、それをめぐる「ものがたり」が生成され、お土産が創りだされていく。 私が最近、エチオピア西南部の調査地からもちかえるお土産のひとつは、エンセーテというバショウ科の植物の繊維をつかって製作した手漉きの紙だ(以下、エンセーテ紙)。生成り色をしたものもあれば、赤タマネギの皮で染色した薄紅色の紙もある。繊維の風合いが残るざらざらとした手触りの紙は、メッセージカードや台紙などに最適だ。独特の紙の風合いに創作意欲をかきたてられてカンバス代わりに注文するエチオピア人の画家もいるそうだ。エンセーテ紙は、村の子どもたちが製作し、近隣にある博物館の土産物の売り場でも販売されている。 エンセーテはエチオピア起源の植物で、アジアやアフリカの冷涼な地域に自生しているが、エチオピアの南部2016 07 no. 16[発行]東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1 電話042-330-5600 FAX 042-330-5610定価 : 本体476円+税[発売]東京外国語大学出版会電話042-330-5559 FAX 042-330-5199FieldPLUSフィールドプラスアフリカエチオピアアディスアベバ調査地
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