FIELD PLUS No.16
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31FIELDPLUS 2016 07 no.16た。放映権収入が大きな影響を及ぼし、資金力のあるクラブとそうでないクラブの格差も広がっている。サッカーのビジネス化はもはや止まることはない。こうした現象はトルコにおいても例外ではなく、サッカーを巡る風景に変化を及ぼした。 変化のなかで最も目につくわかりやすい例として、スタジアムを訪れる観客層の変化を挙げることができるだろう。サッカーのスタジアムは巨大な祝祭空間であるといわれてきた。しかしその祝祭に参加するのは圧倒的に男性が多かった、というよりも男性しかいなかったという方が実情に近い。ある意味で殺伐とした熱狂がスタジアムを包み、そこではありとあらゆる罵詈雑言が聞かれた。筆者自身、トルコ語の卑語はスタジアムで耳にして覚えたものが多い。試合に負けて座席を燃やすサポーターを目にしたこともあれば、後方から飛んできた爆竹が筆者にあたって破裂したこともあった。スタジアムを訪れるサポーターの熱狂度においてヨーロッパ随一ともいわれるトルコでは、現在でも観客が熱狂的なことに変わりなく、ときにサポーターの行き過ぎた行動が見られるのも事実である。しかし観客の中に子供連れの家族や女性だけのグループの姿を目にすることも普通になった。多くのファンがレプリカユニフォームに身を包み、マフラーを掲げ、スタジアムDJにあわせて声を上げ、応援歌を歌う。巨大な横断幕や人文字も見られる。男だけの祝祭空間は万人に開かれたエンターテイメントの場と化した。 オフィシャルショップの充実も隔世の感がある。こうしたショップがなかったころは、試合のときに、「パチモン」のグッズを売る人たちが周辺に店を出していたが、今では多くのファン──女性を含む若者たちや家族連れ──が常設のオフィシャルショップにチームのグッズを買いに来る。ユニフォームはシャツ、パンツ、ストッキングがすべて、シーズンごとに新しく並べ替えられる。マフラー、帽子、手袋、バッグからTシャツ、コップ、時計、ライターなど日用品の類も売られている。フェネルバフチェのユニフォームは、2012-13シーズンに50万着が売れるという記録を打ち立てた。2015-16シーズンも発売3日で3万5000着が売れたという。決して安いとはいえない観戦チケットを購入し、オフィシャルのレプリカユニフォームや様々なグッズを購入することができる層はそれなりに限られているのであろうが、同時に経済的余裕がある観客やファンが増えたということもできるだろう。クラブを支えるファンの姿を見ると、かつてよりもトルコが経済的に豊かになったことが実感される。トルコサッカーの国際的拡がり 近年のトルコリーグでは、以前に比べて、著名な外国人選手が多くプレーするようになった。旬のプレーヤーはさすがに欧州のトップリーグでプレーしているが、それでも以前では考えられないような大物プレーヤーがトルコリーグに活躍の場を求めている。監督でもかつてジーコや、欧州選手権を制したばかりのスペイン代表監督ルイス・アラゴネスがフェネルバフチェの指揮を執った。とくに後者の監督就任は驚きをもって報じられた。こうした現象もやはりトルコのクラブの経済的成長と野心、トルコサッカーのステイタスの上昇を物語っている。 またトルコ人プレーヤーが欧州の様々なリーグで活躍する例もかつてより確実に多くなっている。なかには強豪クラブで何シーズンにもわたって結果を出し続ける選手もいる。こうした例に加えて、トルコ以外の国で生まれ育ったトルコ系選手たちの動向も見逃すことはできない。ドイツで生まれ育ったユルドゥライ・バシュテュルクやイルハン・マンスズが2002年日韓ワールドカップで活躍したことを覚えている人も多いだろう。前者のように国外に生まれ、国外のクラブチームで活躍しながら、トルコ代表を選ぶ選手がいる一方、後者のごとく国外出身のトルコ系選手が、若いうちからトルコのリーグで活躍する例も増加し、トルコ代表に多く選出されようになってきた。 その一方で、自らが生まれ育った国の代表を選ぶ選手も多い。例えばギョクハン・インレルはスイス代表としてプレーし、メスト・オズィル(日本ではエジルと表記)はドイツ代表を選んだ。ドルトムントのヌーリ・シャーヒンとイルカイ・ギュンドアンのように、トルコ代表とドイツ代表のトルコ系選手が同チームに在籍するという興味深い例も存在する。どの代表を選ぶかということは選手個人の事情によるところが大きいと思われるが、いずれにせよトルコサッカーはトルコ国内だけで完結するものではなくなってきたといえるかもしれない。 さて最後に一言お断りをしておかなければならない。掲載されている写真からもお分かりかと思うが、筆者はフェネルバフチェのファンである。初めてのトルコ旅行の際にテレビで試合を観戦してプレーに魅了され、留学中はアジア側に住んだこともあって、何度もスタジアムに足を運ぶことになった。なぜフェネルバフチェなのかという質問にはうまく答えることができない。ファンとはそういうものなのだと思う。というわけで、フェネルバフチェ以外のファンの人には、お詫びする次第である。冬のスタジアム。上にはヒーターがみえる。頭をスカーフで覆った女性も観戦中。ライターとブレスレット。ケース入りのライターだけがオフィシャルショップで売られていた本物のジッポー。ほかは公式グッズではない。いくら管理してもしきれないということだろう。シリコン製のブレスレットは公式グッズ。リーグ戦は有料チャンネルでテレビ中継されるので、家で見られない人はカフヴェ(カフェ)などでテレビ観戦する。フェネルバフチェのホームで行われる試合のチケット。試合前、ファンの声援に手を上げてこたえるジーコ監督。稲本潤一選手のガラタサライ移籍と入団を伝える新聞の記事。

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