25FIELDPLUS 2016 07 no.16母音記号も含めて活字化されていることが確認できるアーム下部ア文字タイプが見つかった。また、東京外国語大学のウルドゥー語科から、ウルドゥー文字タイプを拝借できることになった。「天啓の導き」というと大げさだが、タイプの配置についてアイデアが固まったのはこの時だった。これらの文字は、おおよその使用地域で並べると、ビルマ → チベット → ベンガル → デーヴァナーガリー → ウルドゥー → アラビア → ヘブライ、のように、東から西に連綿とつながるものになる(上図参照)。これらを順路に沿って配置してはどうだろうか? これまでに実施されたアジアの文字に関する展覧会は、「旅(文字の伝播)」をモチーフとしていた。本展示ではタイプを通して、「東から西への文字巡り」ができるように工夫してみた(22〜23頁の展示会場イラスト参照)。 実は最初、「インド系文字のタイプライター展」というタイトルを考えていたが、ウルドゥー文字・アラビア文字タイプが増えたので、タイトルを再考することにした。「インド系文字+アラビア系文字+ヘブライ文字」を包含する適当な単語が思いつかなかったので、最終的なタイトルはやや愚直なものになってしまった…●タイプライターから文字と言語を考えてみる 文字の使用地域というポイントに加え、「タイプを通して言語と文字の関係に思いをはせてもらう」…ように配置を考えてみたつもりだ。 最初のコーナーでは、チベット文字タイプとビルマ文字タイプを同じケースに入れた。政治的・文化的なつながりが強いとはいえないチベットとミャンマー(言語名・文字名はビルマ)だが、言語的には「チベット・ビルマ語派」という言語グループに属する。そしてともに、言語系統的にはインド語派と異なるものの、インド系文字を改造した文字を使用している。 途中のコーナーは、デーヴァナーガリー・ウルドゥー・アラビア・ヘブライの各種タイプを隙間なく並べる感じで配置した。デーヴァナーガリー文字で書かれるヒンディー語は、ウルドゥー文字で書かれるウルドゥー語と系統的に極めて近い言語である。しかしウルドゥー文字はアラビア文字にさかのぼるものである。ウルドゥー語はアラビア語とは言語系統が異なるものの、イスラム教の影響もありアラビア文字起源の文字を表記に採用した。一方アラビア文字とヘブライ文字は、字形がずいぶん異なる。しかしアラビア語とヘブライ語は親族関係にある。ここでも文字表記を決定するのはイスラム教とユダヤ教という宗教であり、言語系統と関係しないことが見て取れる。 「文字の系統と言語の系統は異なる」「どの文字を使うかは、言語系統ではなく宗教的な影響が強い」こともこの展示から知っていただければと考えた。 かつて東京外国語大学の各語科にあった貴重なタイプライターは、2000年のキャンパス移転に伴い、ウルドゥー文字タイプを除き全て廃棄されてしまったそうだ。これを先見の明が無かったと非難するにはあたらない。今回自分でも運搬・設営に参加してみて分かったのだが、タイプライターというものは、(展覧会場ではあまりそう感じられないが)普通の室内では案外場所をとるし、結構な重量物である。PC、プリンターに駆逐されてしまうのは致し方ないと思う。とはいえ、アジアの諸文字についていろいろと考えさせてくれる貴重なタイプライター。残ったタイプは大事に保全し、後世の展覧会で活躍してもらおう。○展覧会サイト:http://www.aa.tufs.ac.jp/ asiatypewriter2015/index.html各文字のおおよその使用地域(ほぼ矢印の順に各種文字タイプを並べた) タイプ操作法*ここでは、底部の、入力できるデーヴァナーガリー文字の一覧表を「文字盤」、その上で上下 左右に動く、活字の入った容器を「活字盤」と呼びます。1ストッパーを外し、紙をセットします。4突き上げ棒によって、当該の文字の活字、1文字分が上昇します。上下動するアームの直方体ソケット部分に、この活字が入ります。この活字を収めたままアームが上昇します。5活字面がインクリボンを叩きます。紙と活字に挟まれ、インクリボンのインクが紙の表面に固着します。2入力したい文字を文字盤から探します。活字盤を動かし、活字盤の正面にある凹字型のゲージが、文字盤上の、入力したい文字の所に来るようにします。3凹字ゲージの中にある文字が、活字盤ではアームの真下に来ます。この時、活字盤の当該の文字の下には「突き上げ棒」が位置しています。活字盤の左右のレバーを思い切り下げます。ストッパーを外すと上にしなる、金属製の用紙留めがねインクリボン活字を拾うソケット部分活字を拾って上昇するアーム 突き上げ棒ヘブライ文字アラビア文字ウルドゥー文字チベット文字ベンガル文字デーヴァナーガリー文字ビルマ文字
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