FIELD PLUS No.16
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り遊ぶことのできるまたとない場となり機会となっていることである。子どもが3人以上集まれば、そこにはおしゃべり、じゃれあい、からかい、そして時には喧嘩も生まれる。村の子どもたちの遊びの特徴は、時と場を選ばず遊びの道具や形に捉われない融通無碍さにある。 と言うわけで、上記のおじさんの暴露話は、当時29歳の私が「遊んでいた」ことよりも、大人であるべきはずの私が「子どもたち」と共に時間を過ごしていたことの方に村人たちの好奇の目が注がれていたことを物語っていたようである。知力・体力・ジェンダー ちなみに村で使われていたソーマ(sôma)というマダガスカル語北部方言語彙は、〈遊び〉と訳されるものの、それは決して子どもたちの専売特許ではない。女遊びや前戯もソーマと呼ばれるが、歌もソーマであり、踊りもまたソーマである。ソーマを語根とした他動詞マンピソーマ(mampisôma)は、〈楽しませる〉、〈面白がらせる〉の意味となり、想像をたくましくすれば、このような心の状態をもたらす行為が、子どもにとってもまた大人にとっても等しくソーマと呼ばれるのかもしれない。その一方、4列に総計32個の穴のあいた盤に石を置いて動かしながら相手の石を取ってゆく世界的にはマンカラの名で知られるアラブ起源の盤上ゲームであるカチャ(katra)、盤に刻まれた格子状の線の上の駒を動かして相手の駒を取ってゆくマダガスカル独自のゲームであるファヌールナ(fanorona)、これらの対戦型ゲームをすることもソーマと呼ばれる。こちらは昔、婿や敵など相手の性格や頭の良さを測るための手段としても用いられたと言うから、いささか肩に力の入る〈遊び〉である。私もこれらのゲームのルールを覚えて調査地で実戦したものの、上級者には絶対に勝つことができなかった。 また、祝い事においてウシを屠ほふる前、あるいはワクチン接種やウシに水田の中を歩かせて田ごしらえを行う蹄耕や牛蹄脱穀などウシが多く集まる際に、青壮年男性が好んで行う〈ウシに組み付く〉と呼ばれるミトゥル・ヌンビ(mitolon’omby)は、暴れるウシのコブや角を掴みながらどれくらい長く一緒に飛び跳ねていられるかを見せる〈遊び〉である。観客、とりわけ若い女の子たちが多いほど、挑戦する男たちの数が増える。当然のことながら、生身のウシが相手の〈遊び〉であるため、蹄で足の甲を踏まれて骨折したり、囲いに用いられている木とウシの間に挟まれて背中一面に擦過傷を負ったり、ひどい時は角で大腿部や腹部を突かれて即病院送りになるなど、危険と隣り合わせである。しかし、見る者たちをはらはらさせるまさにその点にこそ、この〈遊び〉の真髄がある。 ミトゥル・ヌンビと同系統の〈遊び〉に、男同士が拳で思いっきり殴り合うムレンギ(morengy)がある。決まった開催の機会はない農閑期の〈遊び〉であり、もともとは勝敗をつけずに殴り合い、武術のような攻防の技もとりたてては無かった。こちらも、農耕などで鍛えた筋肉隆々の男たちが馬鹿力をふるうため、鼻や口から鮮血が迸ほとばしり、歯が欠けて飛ぶのはあたりまえと言う荒っぽい代物である。それにもかかわらず、ここ十年くらいの間に大きな町では女性同士のムレンギが出現し、観客を集めている。町に出ていった姉たちが殴り合うようになっても、村に住む妹たちはお花に囲まれた家と家族という女の子特有の絵を変わらず描くのかどうか、いささか気になる今日この頃である。15FIELDPLUS 2016 07 no.16ミトゥル・ヌンビ。水汲みをする子どもたち。魚獲り。カチャをする男性。子守りをする子どもたち。

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