13FIELDPLUS 2016 07 no.16霊長類学 フィールドに出かけた研究者は様々な遊びを目撃し、また時に自らも遊びます。ここでは、3名の研究者が、それぞれのフィールドで出会った「遊び」について報告します。 社会人類学者の深澤秀夫さんは、マダガスカルの村で、子どもたちと遊びながらフィールドワークをしました。日々の生活や、動物たちとの関わりのなかで育まれる、マダガスカル北西部のユニークな遊びの数々。深澤さんは、子どもや大人たちが行うバラエティに富んだ遊びが彼らの人間関係や同輩意識を育む様子や、それらの遊びが社会の男らしさや女らしさの規範と深く結びついていることを描き出します。 同じく社会人類学者の池亀彩さんは、インドで不道徳とされながらも実際には多くの人が行っている飲酒について、裏フィールドワークを敢行しました。タクシーの運転手も行きたがらないパブやラウンジバーに足を運び、なぜ人はそれでも酒を飲むのか、酒はどのように飲まれているのか、といった疑問に迫ります。池亀さんは、飲酒が悪とされるインドの歴史的な事情を紐解きつつ、それでも飲酒がインドの人々にとって生きるために必要な遊びとなっていることを明らかにしてゆきます。 霊長類学者の島田将喜さんは、取っ組み合って遊ぶニホンザルを観察します。噛んだり掴んだりするニホンザル。その行為が、喧嘩なのか遊びなのかは、どのように区別可能なのでしょうか。またそれが攻撃でなくて遊びであると、相手や周囲のニホンザルに、どのように了解されるのでしょうか。島田さんは、ニホンザルたちのまさに一挙一動を追いながら、遊びが成立したり誤解されたりする過程を分析していきます。この記述からは、遊びとは何か、そのメカニズムや特性について考えるヒントを得ることができそうです。 フィールドワーク自体を楽しげに遊んでいるようにも思える3名の研究者たちの報告からは、遊びがかくも多様であり、また我々の社会生活の重要な一部を占めていることが浮かび上がってきます。 〈吉田ゆか子 記〉
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