FIELD PLUS No.16
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11FIELDPLUS 2016 07 no.16のハラール認証団体が、これらの企業や事業体に対して業務提携や情報提供などの形で協力している。 具体的な事例をみてみよう。まず礼拝だが、ムスリムが集まりやすく長い時間を過ごす場所である、那覇空港(那覇市)とイオンモール沖縄ライカム(中頭郡) が礼拝施設を常設している。イオンモールは、同店だけではなく東京や千葉、名古屋などの店舗でも礼拝スペースを設置している。空港については、成田や羽田、関西、中部など国内の主要な国際空港にはいずれも設置されており、沖縄もその例に漏れない。那覇空港もイオンモールも、ウドゥーのための水道設備やキブラ、男女別の礼拝スペースが完備され、気軽に利用できるようになっている。 外国人ムスリム観光客への対応を行っているレストランでは、ハラール認証を取得しているところはまだ少ない。海外からの研修生を受け入れているJICAの沖縄国際センター(浦添市)の食堂(研修生だけでなく一般客の利用も可能)のように一定数のムスリムの利用が確実に見込まれる店舗、イスラーム諸国の料理がメインの店舗、ムスリムのオーナーやシェフがいる店舗、肉や添加物を使用しない自然派志向の料理中心の店舗では、ハラールである食材・調味料の使用や調理方法への取り組みが比較的容易であるため、認証を取得している店舗もある。 他方、前述のように沖縄料理・日本料理にはブタ肉、アルコール成分を含む発酵食品や味醂などハラームの食材を用いたものが多い。そのため外国人ムスリム観光客のための対応を行うには、これらの成分を含まない代用食材を用いるか、あるいは新しい創作料理を考案する必要がある。そこでOCVBは、2016年1月に「ムスリムレシピ開発コンテスト」を開催、ムスリム向けの料理考案のきっかけ作りを行っている。コンテストでは、ベジタリアン部門とノンポーク・ノンアルコール部門が設けられたが、地元の野菜や海苔を中心とした一品料理やコース料理が出品され、高い評価を得た。 ハラール食品の製造・販売も加速している。これらは県内での消費はもちろん、ムスリム観光客向けの土産物にもなり、中東や東南アジアの市場への輸出も可能である。県内では2013年のクロレラ食品を皮切りに、特産の農作物をベースにしたジュースや洋菓子がハラール認証を取得し、那覇市の国際通りや那覇空港の土産物店で販売されている。土産物以外にも、ハラールの惣菜を生産するジョイント・ベンチャー企業や那覇発便のフライトに積み込むハラールの機内食を製造する企業などが、ここ1〜2年で沖縄県に進出している。浮かび上がってきた課題 沖縄県でムスリム観光客への取り組みが本格化した2013年からおよそ3年が経過した現在、さまざまな課題が浮かび上がってきている。まず、ハラール認証を取得する飲食店や食品メーカーがなかなか増加していない。認証取得のためには、適切なメニュー開発や食材を探したり、ハラール食品・料理にハラームの食材が混入しないよう厨房や生産ラインを分けたりするなど手間がかかる。そのため、費やしたコストの割には外国人ムスリム観光客からの利益が上がらないという、費用対効果の悪さが二の足を踏ませているようだ。 次に、こうしたレストランが県内に点在・分散してしまっている。沖縄本島の場合は、那覇空港を起点にモノレール「ゆいレール」が那覇市を横断しているものの、市外に出るには公共バスかタクシー、レンタカーを利用せざるをえず、「礼拝するためバスで1時間、ハラール・レストランまでタクシーで30分」といった状況は、短期滞在の観光客にはいかにも不便である。これらを線として繋げる交通機関やツアーが登場し、さらには特定の地区や商店街が全て外国人ムスリム観光客にとって障害なく利用できるという、面的な広がりをもって対応が普及していくのが理想である。 中東や東南アジア諸国では、その土地に暮らすムスリムが自分たちにとって適切な生活環境を自ら紡ぎ出してきた。日本は、ムスリムではない日本人が官と民の力によって短期間で構築しようとしている。東京五輪に向けていましばらくは試行錯誤が続くだろうが、外国人ムスリム観光客はもちろん、多文化共生社会の実現や国内消費の拡大といった日本の社会経済にとってプラスとなる関係と環境の構築が望まれている。那覇空港の土産物コーナー。土産物の購入も旅行を構成する大切な要素の一部である。ショッピングモールに掲げられた外国人観光客向けの案内板。礼拝室があることが記されている。SIMカードの自動販売機。外国人観光客が日本で抱く不満の一つが街中でのインターネットへの接続環境の不備だ。ハラール認証を取得した沖縄産の洋菓子。商品パッケージに認証マークが記されている。

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