10FIELDPLUS 2016 07 no.162015年はおよそ2,000万人の外国人観光客が日本を訪れた。東アジアからの観光客による爆買いとともに、東南アジアのムスリムの集客と対応に注目が集まっている。沖縄県の事例に注目してみた。が可能となるが、旅行中は外食をせざるをえず、口にするものがハラールであるか自ら確認することは困難である。そこで、食品や料理がハラールであるかイスラームや食品化学の専門家が認定を行うハラール認証団体がイスラーム諸国のみならず日本のような非イスラーム諸国にも誕生し、ムスリムの食品・レストラン選びに一役買っている。 日々の礼拝も旅行中には欠いてはならない。礼拝は、手足を清める(ウドゥー)ための水道施設、人目につきにくい礼拝場所、カーペット、そして礼拝時に頭を向けるメッカの方向を示す矢印(キブラ)などが必要となる。これらは旅先で旅行者自身が準備をするのは難しく、現地のモスクやこれらの準備・対応を行っているホテルや観光施設に頼らざるをえない。 ムスリムの食や礼拝のための環境は、中東や東南アジアでは国内在住のムスリムのために十分な量と質が確保されており、さらに外国人ムスリム観光客がやって来ても受け入れ可能である。これに対して日本は、ムスリム人口が十数万人程度と小規模で、近年の外国人ムスリムの増加を吸収できるだけの設備・施設が決定的に不足している。そこでムスリムのための環境整備が、近年各地で盛んになっている。このうち、国内有数の観光地であり、他地域に先駆けて積極的に外国人ムスリムの集客を打ち出している沖縄県の例をみてみよう。沖縄をめぐる観光の状況 日本政府観光局(JNTO)によると、2015年(1〜12月)の訪日外客数は前年比47.1%増の1,973.7万人を記録した。近年のビザ発給要件緩和や円安基調があいまって、「東京五輪の2020年には年間2,000万人」という目標を5年も前倒しでほぼ実現できたため、政府は昨年末に3,000万人へと数値を上方修正した。それほどの急増ぶりである。出身地域別では、中国、韓国、ムスリム観光客の特徴 イスラームにおいては、信者であるムスリムは日常生活の中でイスラームの教義を実践することが求められる。これは旅行中であっても同様であるが、日常生活とは異なり旅路にあるムスリムにとって、とくに困難を伴うのが食と礼拝である。 イスラームでは、ブタ肉やアルコールなどの飲食を禁止(ハラーム)し、イスラーム法に則り合法(ハラール)である食材や料理のみを口にする。自宅であれば、自ら食材を入手し調理することでハラールの食事台湾、香港といった東アジアからの観光客が全体の72%を占めた。 同年に沖縄県を訪れた外国人観光客は150.1万人で、対前年比68%増と全国水準を上回るペースで増加した。出身地域別では、東アジアの比率が84%で全国水準よりも高いが、これは空路に加えてクルーズ船を利用した海路でのアクセスが可能という、沖縄県ならではの地理的特性を反映している。ただし過去には、日本をめぐる国際関係が観光産業へ影を落としたことがあった。いわゆる尖閣諸島問題では、2012年後半から2013年前半にかけて中国本土からの観光客が大幅に減少、沖縄県では中国人観光客が千人を割り込む月もあった。そこで、新たな市場として観光関係者が注目しているのが、インドネシアやマレーシアなど東南アジアを中心とするムスリム観光客である。官民一体ですすむ沖縄の外国人ムスリム観光客への対応 沖縄県といえば、ラフテー、ミミガー、ソーキそばといったブタ肉料理あるいは泡盛などが食文化の代表格であるが、これらはイスラームでは飲食が禁じられるハラームとみなされる。そのため沖縄は、ムスリムの観光には向かない土地とのイメージが固定化されかねない。そこで近年は、行政や業界団体、ハラール認証団体が、東南アジアを中心とする外国人ムスリム観光客の誘致と食品輸出に取り組んでいる。 外国人ムスリム観光客受け入れに向けた沖縄での取り組みは、官民一体で行われている。まず特産品の生産と市場開拓を行う沖縄県物産公社は、複数の食品会社や国際協力機構(JICA)などとともに2014年8月に沖縄ハラール協議会を組織し、後述のようにハラール食品の製造・販売を推進している。また、県の観光振興を担う沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は、観光業者向けの「ハラール受入実践セミナー」の開催や冊子『OKINAWAムスリム旅行者おもてなしハンドブック』の作成を通じて、事業者への情報提供を行っている。地元の銀行も、ハラール食品のジョイント・ベンチャー企業に対し、投資ファンドを通じて出資を行っている。さらに複数ムスリム観光客への対応とハラール食品の輸出沖縄の取り組み福島康博ふくしま やすひろ / AA研フェロー、立教大学アジア地域研究所特任研究員那覇空港国際線ターミナルに設置された礼拝スペース。沖縄本島那覇空港那覇イオンモール沖縄ライカム
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