FIELD PLUS No.16
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9FIELDPLUS 2016 07 no.16が掲載された。そのなかでも、10月21日付けで「開けイスラム市場 合い言葉はハラル」と題して社説が掲載されたことは重要である。社説に扱われる話題は、数多くの事象のなかから厳選されるからだ。その社説は、日本企業に対して「ハラール・ビジネス」の潜在力を強調し、認証の概要も紹介している。インバウンド観光と連動するハラール、注意喚起も そしてハラールを扱う記事は、2014年には46件と更に増加し、ブーム化したと言えるだろう。6月22日付け紙面には「ハラルを知っていますか」と題した社説が掲載された。この社説は、外国人の訪日観光客、いわゆるインバウンド観光客の増加などを背景として日本人がムスリムと接する機会が増えており、イスラーム独自の生活習慣や食文化への理解が必要だと主張した。その上で、ムスリムを対象としたインバウンド観光の活性化や、日本の食品産業がイスラーム圏市場を開拓することに期待を表明している。 2014年の論調の特徴は、日本のインバウンド観光のキーワードである「おもてなし」の一環として、ハラール対応も位置付けられた点も挙げられる。この他、地方銀行や地方企業が「ハラール・ビジネス」へ参入する動き、日本初のハラール・ファンドの創設、ヘルスケア分野といった食品以外の産業セクターに広がりが見え始めたことも報じられた。 他方、ハラール認証取得のコンサルティングを行う企業や認証を行う団体が急増し、それぞれハラールの定義や認証の内容が異なるため、混乱も生じ始めた。この点は前掲の2014年の社説でも言及され、ハラール認証については国際的な統一基準がなく、「ある国が認める基準が、別の国では認められないこともある」として、ハラール認証に対して正しい理解が必要だと注意喚起した。 日本政府は憲法規定の政教分離に抵触する恐れから、ハラール認証の問題への介入に慎重な姿勢を維持してきたが、農林水産省が実態調査に乗り出したとも報じられた(8月5日付け)。 2015年は33本と2014年に比べるとやや減少したものの、論調はインバウンド観光の文脈で捉えるという特徴がみられる。例えば、年始の特集連載「沸騰訪日消費」では「ハラル続々、ムスリム来れ」という記事が掲載された(1月15日)。また、日本の外食チェーン店がハラール対応をした上で、海外進出をするという、ビジネスが具体化するニュースも目立った。 2016年は4月11日時点で12本のハラール関連記事が掲載されている。2015年に引き続き、インバウンド対応と外食産業の海外展開が中心的に報じられており、ブームは定着化へと向かう様相だ。沸き上がる疑問 イスラーム圏に対する日本企業の関心が高まること自体は歓迎したい。これまでは、イスラーム圏と言えばテロや独裁国家といったネガティブな側面が強調され、日本企業にはリスクの高すぎる市場という認識だった。ハラールを通じたイスラーム圏との接触を通じて、日本企業が異文化への対応能力を向上させる端緒となるだろう。 しかし、なぜ、突如のハラール・ブームなのか。グローバルな食の潮流を見れば、遺伝子組み換え作物を使わない「Non-GMO(non-genetically modified organism)」や、オーガニック、ベジタリアンという特定の宗教を問わないものが先端だ。また、平等性(フェアネス)、倫理性(エシカル)という概念もトレンドになっている。例えば、平等性は、チョコレートの原料となるカカオを農家から不当な価格で安く買うようなことはせず、品質に応じた価格で買い取ることに反映され、倫理性はファッション産業で児童労働を排除することなどである。 企業戦略とすれば、ハラールだけに特化せず、一つのプロダクトでより広い消費層を掴むことのできる商品開発の方が得策であろう。そのなかにハラール対応を含むことは可能であるし、実際にムスリムは、明示的にハラールでなくても、ベジタリアンであれば良いという人々も多い。 なかには、ムスリムはハラール認証マークがない食品は食べないと信じ切っている企業関係者もいるが、明らかな間違いだ。イスラーム圏の実態としては、「ノー・ポーク」という表示だけのことも多い。 筆者が危惧するのは、日本企業がハラール産業で利益を上げられずに撤退してしまい、いったん高まったイスラーム圏への関心が減退してしまうことだ。日本企業には、コンサルタントなどから提供される情報だけでなく、より広く食や消費のトレンドを見極めた上でのハラール対応を期待したいところだ。日本経済新聞に掲載されたハラール関連の記事の数(日経新聞電子版および日経テレコンより筆者作成)。バンコクでアラブ人が多く泊まる地域にはこのようにハラールを掲げたレストランが密集。電光掲示板ではアラビア語、英語、日本語など多くの言語で「ハラール」と表示される。近年、東南アジアではアラブ人観光客が急増。特定の地域にアラブ人向けのホテルが集中。シンガポールのビジネス街にあるフードコート。トレイ返却場所にハラールとノン・ハラールの区別がある。恐らく、この形式はマレーシアでは認められない。地域によってハラールのあり方に違いがみられる事例の一つ。(本)504030201001980s20011990s200220032004200520062007200820092010201120122013201420152016(年)4/11まで

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